Human Sciences
Online ISSN : 2434-4753
Practical Article
The practice of remote parenting support under the declaration of an emergency due to the prevention of the spread of COVID-19 infection
Mihoko MoriJunichi KanegaeTakanobu AbeKeiji SakakiSaori TanakaNobuko MoriYoshie WatanabeYui Okimoto
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2021 Volume 3 Pages 62-70

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抄録

本実践報告では,九州産業大学子育て支援室が行ったCOVID-19の感染拡大防止に伴う緊急事態宣言下における遠隔による子育て支援の実践を報告するとともに,この実践を振り返ることで見えてきた子育て支援の意義と本質について述べる。緊急事態宣言下において,子育て支援室に対面参集で行う子育て支援が不可能となり,絵葉書や動画配信による遠隔子育て支援を行った。この遠隔子育て支援であっても,本学子育て支援室の子育て支援事業の目的は十分に達成できるということが推察された。これは,対面参集型でない,遠隔離散型であった子育て支援だからこそ明らかになったことである。しかし,それは対面参集型である従来の子育て支援室の継続会員であったことが必要条件であった。今後の課題としては,エンパワーメントの視点からみた「社会関係の広がり」を視野に入れるのであれば,同時双方向型の遠隔子育て支援も検討しなければならないことが挙げられた。

Abstract

In this practice report, we report on remote parenting support (RPS) under the declaration of an emergency due to the prevention of the spread of COVID-19 infection conducted by the Parenting Support Center attached Kyushu Sangyo University (KSU), and clarify the significance and essence of parenting support that we found. Under the declaration of emergency, it became impossible to provide face-to-face parenting support to the KSU Parenting Support Center. Therefore, we provided RPS through postcards and video distribution services. We show that even in RPS, the objectives of the project of the KSU Parenting Support Center can be fully achieved. However, it was found that we were able to achieve that because the target of the project was continuous members of the KSU Parenting Support Center, which was a face-to-face last year. This was found because the project was a remote discretely type of parenting support that was not face-to-face. As a future issue, if we consider “expansion of social relations” from the viewpoint of empowerment, we must consider simultaneous interactive RPS.

1. はじめに

九州産業大学人間科学部子ども教育学科の下に置かれた子育て支援室は,2018年4月に人間科学部の設置とともに開設した。その目的は,2018年5月に制定された「子育て支援室に関する規程」によると,その第2条に「子育て支援室は,地域社会における子育て支援に関する事業及びそれに関連する保育に係る研究を行うとともに,人間科学部子ども教育学科に在籍する学生(以下「学生」という)に対して子育て支援及び保育に係る教育を行うことを目的とする」と定めている。つまり,「地域における子育て支援に関する事業」(以下,子育て支援事業),「関連する保育に係る研究」(以下,保育研究)及び「学生に対する子育て支援及び保育に係る教育」(以下,学生教育)の3点にあるといえる。

子育て支援室を利用する対象者は,第6条で「0歳から小学校就学前の子どもとその保護者とする」とされ,会員登録制による利用としている。実際に利用している子どもの年齢は幼稚園への入園前の0歳から3歳である。第6条では,さらに「子育て支援室を利用する場合は,子どものみの利用ではなく,必ず保護者同伴でなければならない」としていることから分かるように,預かり施設ではなく,子どもとその保護者に遊びの広場を提供するという施設である。大学の設置する保育研究と学生教育の場であるという一義的な設置目的はあるが,子育て支援事業については,現在の子ども・子育て支援制度下における性格は,後述する「地域子育て支援拠点事業」1)2)の,旧「ひろば型」施設であり,現在の「一般型」施設と同類型の施設と考えることができる。2019年度末には,子育て支援室運営の基本的な考え方として,大学に設置されているという特色を生かすために,一度に受け入れる利用者数を4~5組程度に絞り,「静かな落ち着いた雰囲気の中で,小さなお子さんとお母さん,お父さんがしっかりと向き合って遊べる場」と,学科で確認した。

また,子ども教育学科専任教員による「子育て講座」を月に1回から2回程度実施してきた。講座を担当する専任教員のそれぞれの専門分野を生かして,子育てに役立つ知見を紹介したり,子どもと保護者で一緒に身体を動かしたりモノづくり体験をしたりするといった内容で,1回あたり30分から40分程度で実施してきた。希望する会員を対象として,平均して10組程度の参加があり,参加会員に対するアンケート調査では,好意的に受け止められているといえる。

2. 新型コロナウイルス感染症に対する本学の対応

2019年末に中国の武漢市で確認された新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)は,その後,瞬く間に東アジア諸国に拡がり,そして,イランなどのアジア全域,イタリアなどのEU諸国へと拡がっていった。我が国においては,4月7日にCOVID-19の感染拡大防止に係る緊急事態宣言を感染拡大警戒地域とされていた東京,大阪,そして福岡などの7都府県に発令した。そして4月17日には緊急事態宣言を全都道府県まで広げて感染拡大防止に努めた。これに伴い,九州産業大学も4月9日には学外者はもとより,学生,教職員らの大学構内への入構禁止措置を決定した。このため子育て支援室においては4月に新規会員募集を行うとともに継続会員の利用を行う予定を当面延期し閉室にすることになった。しかし,緊急事態宣言下で,不要不急の外出は避けるようにとなっている状況の中だからこその子育て支援が必要ではないかという問題意識をもつに至っていた。

「遠隔授業・在宅学習」への対応について,当面のオンデマンド型授業を1年生の「基礎ゼミナール」注1)授業担当者が模索する中で,動画配信サイトYouTubeでの限定公開注2)による講義動画配信の試みを子育て支援室専任職員とともに行ったことから,緊急事態宣言下における遠隔による子育て支援の着想を得るに至った。子育て支援室としては,新規会員募集は当面,延期としたものの,2月に翌年度の会員登録を希望した会員が7組(以下,継続会員)あった。この状況に応じた子育て支援の可能性があるはずではとの課題を設定して,子育て支援室専任職員と子ども教育学科専任教員(4~7月の子育て講座担当4名および子育て支援室学生ボランティア担当3名)が協働して,具体的な動きを構想していった。

本実践報告では,本学子育て支援室が行ったCOVID-19の感染拡大防止に伴う緊急事態宣言下における遠隔による子育て支援の実践を報告するとともに,この実践を行うことで見えてきた子育て支援の意義と本質について述べていきたい。

3. 遠隔子育て支援の実践

(1) 絵葉書による子育て支援

1) なぜ,絵葉書なのか

本学子育て支援室は「子育てをしている保護者の子育ての孤独感や不安感を緩和し,子どもの健やかな育ちを促すこと」が一義的目的であるが,まず,外出を控え家庭で過ごしている子どもに対する何らかの支援も必要であると考えた。主な対象児の年齢は1歳から2歳前後であるので,子どもの共通した生活経験や発達の様子を考慮しながら,その方策として,1,2歳児が直接手にでき,自分に関する情報が載っていることを認識できるのではないかと「葉書」を送ることに着目した。

そこで,来室時に子どもたちが好んで使っていたおもちゃのイラストは,子育て支援室の経験を思い出す情報になるのではないかと考え,葉書に絵を施し「絵葉書」による子ども支援を行うことにした。

2) 絵葉書の内容

手描きイラストの絵葉書とした。和紙風ハガキ1枚に1種類のおもちゃをペン描きし,水彩色鉛筆で彩色,葉書の余白に一人一人の子どもに呼びかけるように名前と挨拶ひと言を大きく筆書きし「絵手紙風」にした。小さな文字で保護者への挨拶も添えた。一般に,子どもは,絵本が好きで,実物ではない絵を通して想像を膨らませたり経験と照らし合わせたりする楽しさを味わう姿が見られる。絵は子どもにとって親近感を持つ手法であるという実感も手描きの選択に繋がった。また,保護者が声に出して名前や挨拶文を子どもへ読んであげることで,絵本のように親子の会話や関わりができることも想定した。手描きによって温かい思いや濃やかな心が伝わっていけば,外出制限期間中に子育てに従事している保護者の孤独感や不安感を緩和する手立てになることにも期待した。5月から7月まで,1会員1か月2回ペースで絵柄を変えながら全5枚の絵葉書を郵送した(図1)。

図1

遠隔子育て支援で用いた絵葉書

3) 継続会員の反応

緊急事態宣言が解除され,本学危機管理対策会議による活動指針がレベル2に変更されたことに伴い,7月6日から4週間,継続会員に向けた1時間1組利用の試験的開室を実施した。7組中3組が利用され,その際,保護者に絵葉書について子どもの反応や保護者の感想を尋ねてみた。聞き取りによる回答を表1に記す。

表1 聞き取りによる継続会員の回答
『「ダイガク行きたいね。」と言っていた。』
『絵葉書を見て「センセイ」という言葉を発していた。』
『おもちゃの絵は,子育て支援室のものだとわかっていた。』
『子どもの好きなおもちゃばかりだった。』
『子育て支援室関係者の温かさに感動した。』
『手描きに感激した。どのようにして描いたのか?』
『子どもにはまだ見せていない。家での遊びに行き詰った時に活用しようと思っている。』
『破ってしまわないようにファイルしている。子どもは,そのファイルを眺めている。』
『ファイルして思い出にする。』

また,試験的開室以前には,2組の継続会員から回答があった。葉書に家庭での子どもの写真を載せたり,成長の様子を詳細に記述したり,わが子の今の姿が記載されていた。来室3組の聞き取りによる回答と葉書による回答は,継続会員7組中4組からあったことになる。絵葉書は,継続会員の親子にとって嬉しい便りとなったことは確かなようである。

4) 考察

小さな子どもにとっては,2月までの日常を思い出すきっかけにはなったようである。7月の試験的来室の再開時には,久しぶりの再会に入り口で照れた仕草を見せていた子どもが,入室後,躊躇なく主体的に行動し始めたことから,5枚のおもちゃの絵葉書は,少なからず空白期間の子育て支援室の記憶を埋めるものの一つになっていたのではないかと推察する。

また,保護者に目を向けてみると,2組は子どもの近況を細やかに書いた葉書の返信があったことから,遠隔子育て支援の方策の一つとして試みた手描きの絵葉書郵送によって,相手もそうしてみようという思いが現れるものであると感じた。そこには,利用中止数か月間の子どもの成長や可愛らしさを相手に知らせたい親心が伝わってきた。絵葉書を思い出としてファイルするという行為も,自分たち親子へ個別の関心を向けられたことに対する喜びの反応でもあるように感じる。絵葉書を通して子育て支援室と親子が繋がることで,外出制限時の子育て保護者の孤独感や不安や緊張感というものが,一時的に緩和され,少しでも保護者と子どものゆとりと安心感に繋がったのだと考察する。

(2) 子育て支援室からの挨拶・連絡・遊びの紹介の動画配信による子育て支援

1) 動画配信の目的

絵葉書による子育て支援は,主に継続会員の子どもを対象に行った遠隔子育て支援の方策実践であった。次に,外出制限時の子育て保護者の孤立感や不安への緩和支援の方策として,保護者を対象に行った動画配信の実践について報告する。

継続会員7組のほとんどは,育児休暇や専業主婦で在宅している母親とその子どもである。COVID-19緊急事態宣言以前から日中は母親と子どもだけで過ごしており,母親の子育て支援室利用は,子どもと向き合って遊ぶ充実感を得るためだけでなく,専任職員や教員,他の会員保護者と関わることを楽しみに訪れる目的もある。家族以外の顔見知りと関わることで社会と遮断しているという孤立感が緩和され,大人同士の会話や子どもに関する話題により,自然と笑い合う場面も生まれ不安の解消につながっており,この点は,前章で示した,本学子育て支援室の一義的目的に合った成果が見られている。

そこで,外出制限期間中でも,この成果と同様な思いを在宅で感じられる方策として,学生への講義動画を動画配信サイトで限定配信していたことに着目した。子育て支援室の様子や専任職員,教員の実際の姿や声を届けることができる保護者に向けた「ビデオレター」の動画限定配信である。

ただし,実施するにあたっては,保護者向けとはいえ,子どもも一緒に視聴することを想定して,公益社団法人日本小児科医会が2004年2月に「子どもとメディアの問題に対する提言」注3)に述べている「2歳までの子どもには,テレビやビデオの視聴を控える」,「全てのメディアへ接触する総時間を1日2時間までを目安にする」など,早期,また長時間のメディア接触による乳幼児の発達に対する懸念を構成時の留意点とした。

動画によるビデオレターを通して,顔見知りの子育て支援室関係者の声や顔や話に接することで,会員としての継続を実感したり,話の具体的内容を日常の子育てに参考にしたりして安堵できれば,保護者の気持ちのゆとりが促され,子育てへの自信を持たせることになる。牽いては子どもへの対応にも安定感が増すのではないだろうかと想定した。

2) 動画の配信開始日と内容

継続会員に向けた動画は5月と6月,7月に1回ずつ配信した。動画の配信時間は6分から10分程度の長さで,日常を伝えるビデオレターの要素を持つ内容とした(表2)。

表2 子育て支援室からの挨拶・連絡・遊びの紹介の動画配信の内容
配信日・撮影場所 内容(挨拶など) 内容(遊びの紹介など)
5月21日(木)
子育て支援室内
時節の挨拶,子どもの名前呼びかけ,利用中止のお詫び,学内の状況,学生授業(基礎ゼミ)への協力依頼,子育て講座動画配信案内 【紙を使って遊ぼう】
びりびり破る・ちぎる→散らす→バケツに集める→透明袋に入れる→封をして風船遊び
6月26日(金)
子育て支援室内
時節の挨拶,子どもの名前呼びかけ,大学HP子育て支援室サイト開設案内,基礎ゼミ学生ボランティア体験連絡 
試験的開室の予告
【簡単な歌遊び】
♪おもちゃのチャチャチャの歌に合わせた振り遊び 
大人役と子ども役の二人で踊る 
お面をつけて踊る(基礎ゼミ関連)
7月31日(金)
子ども教育学科花壇(3号館屋外)
時節の挨拶,試験的開室中断の連絡,学内の状況と対応,後学期の予告 【花壇に植えたひまわりの成長報告】
子どもの名前プレートと一緒に各自のひまわりの様子報告

動画の始まりに,継続会員の子どもたちの名前を一人一人呼びかけ,ひと言言葉を添えるようにした。そうすることで,親子が動画を一方的に見るのではなく,返事をしたり言葉を聞いたりして画面を通して相互に繋がっている気持ちになれるように留意した。また,撮影時期の学内の様子や学外者への対応などの連絡事項を伝え,会員利用は中止しているが,子育て支援室は学内施設として機能していることを伝えることで,保護者が,会員として在籍していることを意識できるようにした。

遊びの紹介では,室内でできる簡単な遊びで,狭い空間でも気分が発散できるような内容を選んだ。例えば,歌に合わせた振り遊びは,保護者にも馴染みある歌を選び,口ずさみながら振りをつけて踊ってみた。わざわざ音楽をかけなくても,日常の中で気軽に体験でき,いつでも繰り返して行える遊びであることが大切であると考えた。

3) 継続会員の反応

全3回の動画配信であるが,第1回目は再生回数が一番多く,回を追うごとに再生回数は減っていた。視聴後のアンケートで得られた回答の主なものを表3に記す。回答は総じて好意的に喜んでいる反応であった。

表3 視聴後のアンケート結果
『子どもの名前を呼んでいただき,大変喜んでもう1回!もう1回!と言っていた。』
『子どもの名前を呼んでいただいて嬉しかった。』
『また遊びに行けることを楽しみにしている。』
『今では私と子どもにとってかけがえのない場所になっているので,切実にコロナが落ち着いてほしい。』
『動画でも支援室担当者に会えてとても嬉しかった。』
『講座の先生や支援室担当者の姿が拝見でき嬉しかった。』
『大変な状況の時にこのような動画配信をしていただいてとても感謝している。』
『新聞紙を破って遊んだことはあるが,その続きを教えていただいて,子どもと遊ぶのが楽しみ。』
『子どもが,視聴しながら真似して踊っていた。』
『教えていただいた遊びを娘と思いっきり楽しみたい。』

4) 考察

アンケートからは,名前を呼びかけられたり返事したりするわが子と一緒に保護者も喜びを共有できたり,数組に対して配信している動画であるが,自分たち親子にも向けた動画として受け止め喜びを味わうことができていることが見える。また,顔見知りの人の姿を見て声を聞くだけでも嬉しく感じられたり,利用再開を期待したりしていることからは,動画の数分間は孤立感を忘れられていたとうかがえる。また,単なる一方通行的な動画配信ではなく,保護者及び子どもも参加できる送信内容であり,また返信もあるなど,双方向性をもったビデオレターとなっていたと考える。このような肯定感や好意的感情を,動画を通して保護者が持つことができるとしたら,緊張感のある日常から気分転換でき,子育てに対する不安の軽減に繋げられるかもしれない。保護者に向けた動画配信は,緊急事態宣言時に緊張しながら毎日子育てに従事している母親の気持ちを落ち着かせる手立てとして有効だと考える。

ただし,そこには継続会員という条件が高い有効性に繋がっていると考える。継続会員は,昨年度から利用している親子で,本学子育て支援室の内容に対してよく理解しており,喜んで活用している。そして,安心感と親近感を持っているからこそ新年度も継続したいという意思を表している。子育て支援室専任職員に親しみを持って関わることができ,子育て支援室に親近感を持っている。これらの関係性の基礎があって,動画という対面していない状況でも話や言葉,気持ちの受け入れに繋がっていると考える。

(3) 子育て講座の動画配信による子育て支援

これまで子育て支援室会員から希望者を募り,月に1回から2回程度の子ども教育学科専任教員による子育て講座を実施してきた。昨年度までの各回の平均参加組は,8.7組の親子となっていた。学外者の学内入構が禁止されたことから,子育て講座は継続会員を対象とした動画配信とした(表4参照)。絵葉書による遠隔子育て支援を行っていたことから,動画の限定公開URLを二次元バーコードに変換し,それを葉書に印刷して送付した。また,これまでも行っていた子育て講座後に記入してもらうアンケート調査も,Googleフォーム注4)を作成して,そのURLを,同様に二次元バーコードに変換して葉書に印刷して送付した。これによって一方的に発信するだけでなく,継続会員からのフィードバックを確保して双方向性を持たせることができた。

表4 子育て講座の動画配信
配信日・担当者 「演題」と内容
5月25日(月)
渡邊由恵講師
「子どもの遊びに寄り添うおもちゃ―子育て支援室の木育おもちゃのおはなし―」・「ひまわりの種を植えよう」 
乳幼児期における遊びの意義と重要性から子どもの遊びを支えるおもちゃについて解説を行った。次に,家庭で実際に役立てることができるように,発達段階に応じたおもちゃを選ぶポイントや木製品の特性について述べ,最後に木のおもちゃで遊ぶことの意義をまとめた。 
「ひまわりの種を植えよう」では,前年度の入会手続き時に親子でひまわりの種をポットに植えた思い出を写真で振り返りながら,今年度は継続会員の子どもたちの代わりに子育て支援室で種植えをしたことを,実物を見せながら説明した。
6月12日(金)
田中沙織准教授
「たくさん『足』をつかいましょう―足を使って遊んでみよう―」 
世界保健機関(WHO)の5歳児未満の身体活動ガイドライン(Guidelines on physical activity, sedentary behaviour and sleep for children under 5 years of age)を紹介しながら,継続会員の発達段階に応じた神経系や形態・形質の発達について紹介した。 
その上で,室内でも楽しめ,親子でできる足を使う運動遊びを紹介した。遠隔で遊びを紹介するための工夫として,動きの解説が伝わりやすいように,実際に子どもと遊んでいる6種類の動画を収録し,その遊びが幼児期の足の発達にどのような効果があるかを解説した。
6月29日(月)
阪木啓二准教授
「からだを使った子どもとのコミュニケーションについて」 
コミュニケーションは大別してバーバルコミュニケーションとノンバーバルコミュニケーションがある。バーバルコミュニケーションについては意識化されることが多いが,ノンバーバルコミュニケーションは意識化されにくいため,その説明ならびに大切さについて伝えた。 
次に,愛着形成をはじめからだを使った関わりは,基本的かつ大切な関わりであることを伝えた。からだを使った関わりの大切さを改めて実感できるように,さらには普段の関わりに活かせるようにソフトな関わりとダイナミックな関わりの2つを具体的に紹介ならびに解説した。
7月10日(金)
森暢子准教授
「親子ふれあい遊び―たっぷり遊んで食べて眠る子どもに―」 
日常生活の中での“小さな発見”の喜びを親子で共有し,潤いのある豊かな毎日を送るきっかけとなることを目的として行われた。子育て中の生き物の親子写真を紹介しながら,日常生活の中にある楽しみを発見する喜び,豊かな生活について考え合う。また,今求められている“社会情動的スキル”の育ちについて説明。途中で,タオルを使った遊びやくすぐり遊び等を紹介しながら,遊び・食事・睡眠のバランスの取れた生活リズムの確立の大切さを語りかけた。

動画再生回数に着目すると,QRコードの葉書が届いたと思われる日から徐々に回数が増え,最終的に15回前後の回数で落ち着いた。7組の継続会員に送付しているので,継続会員1組あたり2回以上の動画を視聴していることになる。

また,Googleフォームによる継続会員からフィードバックは3~4組の継続会員からあった。無記名ではあるが,ほぼ同じ会員が回答しているようであった。いずれも好意的な回答が寄せられていた。

例えば,第2回の子育て講座では,「漠然と子どもと遊んでいたことが脳や筋肉の発達と関連することを意識できた」,「子どもとスキンシップをとる機会となった」という声が寄せられた。講座内容を,自粛生活の中であっても,子どもとの活動に結びつけながら実践できる内容であることが評価された。

一方で,未回答の保護者がいたことも忘れてはいけない。現在の保護者のニーズに沿わない内容,あるいは子育ての後押しをするにしては的を射ていなかった内容であった可能性も否めない。今一度動画の長所である抑揚の利いた声かけや表情などノンバーバルコミュニケーションの部分も見直しつつ,より自粛生活環境下での継続会員保護者のニーズに沿ったテーマ並びに内容となるように改善を図る必要がある。

子育ては,毎日,そして一日中子どもと向き合い,そしてその子育てをしている自分たちを見つめなおす時でもある。「子育て支援室の共有の場」は,子育てに特化したその特質を活かせる貴重な場となるのではないかと考える。子どもの育ちに大切なことを,保護者自身が生活していく中で気づけるようなきっかけが生ずる発信の手立てをこれからも模索していきたいと考える。

4. 緊急事態宣言下における「子育てひろば」における遠隔子育て支援

本学,子育て支援室の類似施設として,厚生労働省により「地域子育て支援拠点事業」による「子育てひろば」が全国に設置されている。「子育てひろば」は,子育て家庭が交流できる「場」,乳幼児期の子どもたちが安心してのびのびと遊べる「場」であり,「場」を介した子育て支援が行われるため,三密を避けがたい実態がある。そのため,緊急事態宣言に伴い,多くの「子育てひろば」が閉館することとなった。「子育てひろば」が閉館となった中,全国にある各「子育てひろば」では,どのような活動を行い,子育て家庭を支援していたのだろうか。

子育てひろば全国連絡協議会が各「子育てひろば」の実践例や課題を持ち寄って開催した緊急オンラインブロック会議(2020年6月実施)によると,緊急事態宣言によって会えなくなった親子とつながり続けるために,オンラインツールやSNSなどのICTを活用したつながり,手紙や葉書,電話を活用したつながり等が行われていたことが報告されている3)

ICTを活用したつながりでは,「オンラインおしゃべりひろば」の開催,インスタライブによる利用者交流,ZOOMでのプログラム実施,スタッフによる手遊びや,わらべうた等の動画配信が行われていた。オンラインだからこそ初心者でも気軽に参加できると感じている利用者もいることが報告されており,子育てひろばと家庭がつながりやすいという良さがある。さらに,「0歳児の親向けのオンラインひろばは,需要が高いと感じた」4)という意見があり,COVID-19感染拡大の中での子育てへの不安に加え,0歳児の保護者の中には初めての子育てに対する戸惑いや不安感があることがうかがえる。子育てひろばにおけるこのようなICTの活用は,「場」を介さずとも以前と変わらず親子とつながり続け,保護者の子育ての不安感を緩和するためのひとつの手立てとなっていることが考えられる。

その一方で,ICTを活用したつながりには課題があることも報告されている。ICT活用のための予算の問題に加え,プログラムの内容によっては著作権の問題やセキュリティの問題があり,それによりオンラインが認められなかったケースも見受けられる。また,オンラインやSNSツール等が苦手な保護者にも配慮する必要性があることも指摘されている。子育てひろばでは「オンラインがすべてではない」という思いを伝え,これらのツールを日頃使わない人や慣れない人にとっては負担感があることも考慮し,支援が行われていた。

前述したようなICT活用だけではなく,手紙,葉書,電話を活用したつながりも行われていた。例えば,気になる利用者への電話,メッセージを添えた手作りおもちゃキットの送付等が挙げられる。気になる利用者への電話では,直接保護者と会話をすることで,保護者の不安感の緩和に個別的に対応することが可能となる。また,手作りおもちゃキットを送付することで,緊急事態宣言下での家庭での遊びのきっかけ作りや,手作りおもちゃを介した親子の関わりを促す手立てとなることも考えられる。ICT活用とは異なる利点があり,子育て家庭にダイレクトに,そしてより個別的に支援を行っていることがうかがえた。

5. 考察

本学子育て支援室における子育て支援は,「地域子育て支援事業」における目的と同等の「地域において子育て親子の交流等を促進する場を設けることにより,子育てをしている保護者の子育ての孤独感や不安感等を緩和し,それをもって子どもの健やかな育ちを促すこと」であると考えることができる。つまり,子育て中の保護者の孤独感や不安感を緩和して,そのことをもって結果として子どもが健やかに成長すると読み取ることができる。そして,その主な対象者は地域の子育て中の保護者となる。

4月以降のCOVID-19の感染拡大防止に伴う自粛や制限を余儀なくされる中で,地域の子育て中の保護者は一層の孤独感や不安感を感じることとなったであろうと推察できる。本学の一連の子育て支援室から発信した遠隔子育て支援は,この先の見通しが見えない中,いつも以上に孤独感や不安感を感じている継続会員に対して,できないとしてあきらめるのではなく,できることを考える,こうした状況下でのニーズを見つけ出すことによって新しい子育て支援の方法が生み出そうとするものであったように思われる。

遠隔子育て支援として,子育て講座を含むと,動画配信を6回行った。すべてにGoogleフォームのURL配信によって視聴に対するアンケート調査も行った。のべ42組(7組の継続会員に6回)に送った。回答があったのは,表5のとおりであった。のべ18組の継続会員から回答があった(回答率:42.9%)。

表5 視聴に対するアンケート調査の回答数
動画配信別 回答数
子育て支援室からの挨拶・連絡・遊びの紹介の動画配信 御挨拶(5月) 3
御連絡(6月) 3
子育て講座の動画配信 第1回(5月) 4
第2回(6月) 2
第3回(7月) 3
第4回(7月) 3

遠隔子育て支援における実践報告でも繰り返し述べられているとおり,総じて好意的な受け止めの回答が全てであり,緊急事態宣言時に緊張しながら毎日子育てに従事している母親の気持ちを落ち着かせる手立てとして有効だと考えられた。つまり,本学子育て支援室の子育て支援の目的とする「子育て中の保護者の孤独感や不安感を緩和して,そのことをもって結果として子どもが健やかに成長する」はおおむね達成できているのではないかと考えられた。

回答の自由記述を大別すると,「関わりの再認識」「今後に向けた意思表明」の2つに分けられる。

例えば,表6に,第3回子育て講座のアンケート回答からそれぞれの特徴的な回答を記す。

表6 第3回子育て支援講座の自由記述の分類
分類項目 自由記述の内容
関わりの再認識 ・普段何気なくしてた関わりがこんなにも意味があるものだったのかと改めて感じました
・触れる事で相手を感じとる,また相手も感じとる,言葉だけではない心を通わせるコミュニケーションツール
・何気ない行動(ゆらゆら抱っこなど)に大切な意味があったことを知れた
今後に向けた意思表明 ・また明日からちゃんと体をくっつけて関わりたいなと思いました
・自分の手が相手に意思を伝えていることなどを意識して,より良いコミュニケーションをとっていきたい

「関わりの再認識」では,「触れる事」や「何気ない」といった感想が寄せられており,普段の親子の関わりを振り返る機会になったことがうかがえる。また普段の関わりをより意味あるものへと高めるきっかけにもなっており,自分自身の子育てにおける関わりを価値づけて,自信を回復させるものとなっている。

「今後に向けた意思表明」では,「関わりたい」「とっていきたい」など次への意欲が感想として寄せられており,保護者の子どもとの関わりをより良いものにしていきたい思いを後押しするような機会になったことがうかがえる。講義をしつつ,保護者が実感を持ちやすいような実技やすぐに実践できるヒントを組み入れたこと,さらには子育てをエンパワーメントするような声掛けなどが,効果を上げたと考えることができる。

このように子育て支援は,保護者と子どもに対するエンパワーメントの視点が必要とされる5)

中谷6)では,地域子育て支援拠点事業を利用する母親と支援者に対して質問紙調査を行っている。母親に対しては「地域拠点事業の利用による母親の変化」15項目の質問項目を5件法による回答を求め,因子分析により3つの因子を抽出している。この結果を久木田7)のエンパワーメント・プロセス・モデルと対応させて,地域拠点事業を利用する「母親の変化」には「育児負担の軽減と資源の活用」「社会関係の広がり」「自己への意識化と社会変革」の3段階があるとしている。今回の遠隔子育て支援では,この3つの段階の内「育児負担の軽減と資源の活用」段階に到達しているものと考える。それは,本学の子育て支援室の子育て支援事業が目指している中身と同等のものであり,平時の対面参集型に対し,COVID-19の感染拡大防止に伴う遠隔離散型ともいえる遠隔子育て支援でも可能であったといえる。

ただ,遠隔子育て支援の実践報告でも繰り返し指摘されているように,今回の実践による結果は,継続会員という条件があったからこその結果であったと推察される。本学子育て支援室に対してよく理解しており,喜んで活用している。そして,安心感と親近感を持っているからこそ新年度も継続したいという意思を表している。子育て支援室担当者に親しみを持って関わることができ,関係教員へも,利用時の面識や昨年度の子育て講座の受講などを通して同様に親近感を持っている。これらの関係性の基礎があって,動画という対面していない状況でも話や言葉,気持ちの受け入れに繋がっていると考える。

上田8)は,地域拠点事業を利用する5名の母親にインタビュー調査を行い,複線経路・等至性モデル(Trajectory Equifinality Model; TEM)による利用に伴う心情変化の質的分析を行っている。その結果,「母親」の複雑な心情の変化は,「何度も通うようになるプロセス」「場に慣れるプロセス」「場から学ぶプロセス」「子育ての居場所ができるプロセス」の4つの過程に分けることができたとしている。つまり,本学子育て支援室の継続会員は「子育ての居場所ができるプロセス」にまで至っているからこそ,遠隔子育て支援を好意的に受け止めて,「育児負担の軽減と資源の活用」が可能になっているからである。対面参集型の子育て支援を継続してきたというベースがあったからということを忘れてはならない。

6. まとめ―遠隔子育て支援の実践から見えてきたこと

本実践報告では,本学子育て支援室が行ったCOVID-19の感染拡大防止に伴う緊急事態宣言下における遠隔による子育て支援の実践を報告するとともに,この実践を振り返ることで見えてきた子育て支援の意義と本質について述べた。対面参集型でない,遠隔離散型であった子育て支援だからこそ分かったことがある。それは,遠隔子育て支援においても,本学子育て支援室の子育て支援事業の目的は達成できるということである。ただし,その前提として対面参集型である従来の子育て支援室の継続会員であったことが必要条件であったことも明らかになった。

先に緊急事態宣言下における「子育てひろば」における遠隔子育て支援について概観したが,ICTを活用した子育て支援では「オンラインおしゃべりひろば」の開催,インスタライブによる利用者交流,ZOOMでのプログラム実施といった同時双方向型の遠隔子育て支援も行われていた。「遠隔」ではあっても「離散」ではない「参集」型での子育て支援である。本学の子育て支援も,Googleフォームを活用するなどして,双方向性は一定程度確保していた。また,「緊急事態宣言」解除後に新規感染者数が減少していた一時期に試験的に継続会員の一日1組限定の試験的開室も行った。エンパワーメントの視点から子育て支援を「社会関係の広がり」という視野に入れるのであれば,同時双方向型の遠隔子育て支援も検討しなければならないだろう。それにより対面参集型である従来の子育て支援室の継続会員という必要条件も見直すことができるかもしれない。

これからのCOVID-19の感染拡大については,第2波,第3波を迎えたが,現時点でまだまだ先行き不透明であるといわざるをえない。「withコロナ」,「新生活様式」といった時代とはなるであろう。子育て支援の本質を見失うことなく,何度も再確認しつつ「できないとしてあきらめるのではなく,できることを考える」子育て支援をめざしていきたい。

注1)  「基礎ゼミナール」とは,九州産業大学が一年次生前期に設定している,いわゆる初年次教育を少人数のゼミ形式で行う授業のことである。子ども教育学科における「基礎ゼミナール」の講義概要は「まず,大学における学びについて考え,図書館などの学内施設を有効利用(情報検索,資料収集など)するための方法を理解する。次いで,自らの課題意識に基づき,レポート・レジュメの作成―グループでの発表の過程を通して文献の読解,批判的な見方,プレゼンテーション,集団討議に関する能力を養う」などとシラバスに記載されている。

注2)  Googleの動画配信サイトYouTubeではGoogleアカウントを取得することにより,サイトに動画をアップロードすることが可能となり,インターネットを通じて全世界へ向けて公開することができるが,全てのユーザーが視聴できる「公開」,URLを知っているユーザーのみが視聴できる「限定公開」,指定されたユーザーのみが視聴できる「非公開」の3つの段階のプライバシー設定がある。

注3)  「子どもとメディアの問題に対する提言」とは,公益社団法人日本小児科医会「子どもとメディア」対策委員会が2004年2月6日にデジタル技術の進歩とネット社会の普及によりメディアが,心身の発達過程にある子どもに及ぼす影響への懸念から,子どもに関係するすべての人々に,現代の子どもとメディアの問題を提起したものである。

注4)  Googleフォームとは,Googleアカウントを取得することにより利用できるGoogleドライブ上に設定すれる調査管理アプリのことである。ユーザーが設定した設問に対するさまざまな種類の回答欄を設けることができる。本実践では,URLを二次元バーコードに変換して継続会員に葉書で送付し,それをスマートフォンのカメラに写すことにより回答フォームにアクセスできるようにした。

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