2021 年 3 巻 p. 71-79
2008年から11年間の大学新入生の健診成績を分析し,BMIと血圧の関係を調べた。血圧区分は高血圧治療ガイドライン2014に準拠した。肥満は25≦BMI<30のI度と,30≦BMIのII度以上に分け,普通体重は18.5≦BMI<22と22≦BMI<25に分けた。低体重はBMI<18.5とした。男では,普通体重の両区分とII度以上肥満者で高血圧有病率が有意に低下した。女の高血圧有病率は,II度以上肥満者で有意に低下した。男では,BMIと血圧の回帰直線の傾きが収縮期,拡張期ともに有意の低下を示した。BMIの寄与率は,拡張期血圧について有意に低下した。女では,上述の回帰直線の傾きと寄与率が,収縮期,拡張期ともに有意に低下した。2014,15,17年には,拡張期血圧に対するBMIの寄与は有意ではなかった。食塩摂取量が未調整だが,若年者では,高血圧への肥満の寄与が近年になって低下した可能性がある。
I examined the relationship between BMI and blood pressure (BP) in university freshmen from 2008 to 2018. The BP category was based on the Guidelines for The Management of Hypertension 2014. The obesity was divided into grade I (25≤BMI<30) and Grade II or more (30≤BMI), and the normal body weight was also divided into two subcategories; 18.5≤BMI<22 and 22≤BMI<25. The underweight was defined as BMI<18.5. In men, the prevalence of hypertension in both subcategories of the normal body weight and the obesity of Grade II or more significantly decreased for the 11 years. In women, the prevalence of hypertension was significantly decreased in the obesity of Grade II or more. In men, there were significant decreases of the slope of regression line between BMI and both systolic and diastolic BPs. The contribution ratio of BMI to diastolic but not to systolic BP was significantly decreased. In women, both the slope of regression line and the contribution ratio of BMI were significantly decreased regarding systolic and diastolic BPs. Moreover, the contribution ratio of BMI to diastolic BP was not statistically significant in 2014, 2015 and 2017. Though the lack of the measurement of the urinary NaCl did not allow us to estimate annual change of the contribution of NaCl intake on BP, I suppose that in young subjects the impact of obesity on hypertension has decreased in recent years.
肥満は血圧を上昇させる。国内では,複数のコホート研究1)2)が,肥満は高血圧発症のリスク因子であることを示した。観察研究でも,メンデルランダム化の手法3)に基づいて,Body Mass Index(BMI)が高いと高血圧発症のリスクが上昇することが示された4)。一方,日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン20145)は,4 kgの体重減量が−4.5/−3.2 mmHgの降圧をもたらすというメタ解析6)を引用した。これは,同ガイドライン20197)でも引き継がれ,減量による降圧効果も確実視される。
このように,高血圧に対して肥満が寄与するという見解は確立されているが,近年の海外の成績を見ると両者の関連は弱まっている8)9)。インド洋のセーシェル共和国で1989年のデータを見ると,BMIが1 kg/m2増すごとに血圧が2.0/1.5 mmHg上昇していたが,2004年には1.3/1.0 mmHgにとどまった8)。ドイツでも,1998年にはBMIが20から25 kg/m2になると収縮期血圧(SBP)は7 mmHg上昇し,BMIが30から35 kg/m2になるとSBPは3.6 mmHg上昇していたのが,2008年から2011年に得られた成績では,それぞれ3.8と1.7 mmHgの上昇にとどまった9)。
日本でも,1980年から2010年にかけての国民健康・栄養調査の成績を見ると,男性では肥満者の比率が増えたが,高血圧有病率は低下し,両者の関連は弱まったかに見える。しかし,Nagaiらは10),他の交絡因子を調整すると,中高年者の高血圧に対する肥満や過体重の血圧の影響は強まっていると報告した。
本研究では,最近の若年者において,BMIと血圧の関係が変わってきたのかを検討した。
筆者の勤務する大学で,2008年から2018年までの学部新入生を対象に,定期健康診断で測定した血圧とBMIの関係を調べた。毎年2,500人超の新入生が健診を受け,18歳から19歳の男女が大半を占める。
血圧の測定と血圧区分血圧はオムロン社の自動血圧計を用いて,座位で2回測り,平均値を算出し,これを各人の血圧値(単位:mmHg)とした。血圧区分は高血圧治療ガイドライン20145)に準じた。すなわち,SBP<120かつDBP<80を至適血圧,120≦SBP<130かつ/または80≦DBP<85を正常血圧,130≦SBP<140かつ/または85≦DBP<80を正常高値血圧,SBP≧140かつ/またはDBP≧90を高血圧とした。高血圧者の数は少なかったので,高血圧の程度による区分は採用しなかった。
BMIの算出と肥満,普通体重,低体重の区分身長と体重を測定し,BMI値(単位:kg/m2)を算出した。肥満者は25≦BMI<30のI度肥満者と,30≦BMIのII度以上肥満者に分けた。普通体重者はBMI値の幅が広く,人数が多かったので18.5≦BMI<22の者と22≦BMI<25の者に分けた。低体重者はBMI<18とした。
分析1) 各BMI区分における高血圧有病率の経年的な変化を調べた。2) 各年毎に,横軸にBMI値,縦軸に血圧値をプロットして,回帰直線の傾きと寄与率とを算出し,それぞれの経年的な変化を調べた。1)も2)もP値0.05未満を有意とした。
3) 男子学生では高血圧か否かを目的変数とし,女子学生では正常高値血圧以上か否かを目的変数として,肥満の寄与を多重ロジスティック回帰分析によって検討した。説明変数としては,肥満の有無のほかに,健康診断時に自記式の生活習慣調査で調べた健康状態の自己評価11),運動習慣の有無12),朝食摂取の有無13),喫煙習慣の有無14),居住形態(一人暮らしか否か)15)を採用した。食塩摂取量16)については調べていないので,説明変数に含むことが出来なかった。
この研究計画は九州産業大学の倫理委員会の審査を受け,研究の実施について承認された(H27-0008号)。
2008~2018年には,毎年2500~2800人の新入生が,定期健康診断を受け,生活習慣調査に記入した。男女比は4:1であった(表1)。これは,入学した学部生の約95%にあたる。各年毎の血圧平均値とBMI平均値を図1に示した。この11年間で,男子学生においては,SBPが123.7 mmHgから117.3 mmHgまで有意に低下したが,DBPは有意の経年変化を示さなかった。女子学生では,SBPもDBPも有意の経年変化を示さなかった。BMIは男女ともに,有意の経年変化を示さなかった。
2008年 | 2009年 | 2010年 | 2011年 | 2012年 | 2013年 | |
男:女(人) | 2072:499 | 2103:610 | 2165:647 | 2175:583 | 1957:609 | 2106:578 |
2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | ||
男:女(人) | 2020:595 | 2025:578 | 2171:631 | 2126:624 | 1855:644 |
対象者の血圧平均値とBMI平均値
表2には,2008~2018年の年毎における各BMI区分での,それぞれの血圧区分に属する学生の数を男女別に示した。肥満I度あるいは肥満II度以上では高血圧者の割合が高いことが読み取れるが,その割合は年々低下している。2008年,2013年,2018年の3年のデータを用いて,各血圧区分に属する学生の割合を図2に示した。特に男子学生で明らかであるが,BMIが増えると高血圧者の割合も増加している。同時に,肥満者における高血圧の割合が経年的に低下していることが読み取れる。
男子学生 BMI区分 | 女子学生 BMI区分 | ||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
低体重 | 普通 低値 |
普通 高値 |
肥満 I度 |
肥満 II度~ |
全体 | 低体重 | 普通 低値 |
普通 高値 |
肥満 I度 |
肥満 II度~ |
全体 | ||||
2008 | 血圧 区分 |
至適 | 118 | 455 | 191 | 39 | 6 | 809 | 60 | 222 | 79 | 26 | 1 | 388 | |
正常 | 48 | 303 | 188 | 76 | 9 | 624 | 5 | 34 | 20 | 16 | 2 | 77 | |||
正常高値 | 13 | 147 | 159 | 82 | 16 | 417 | 1 | 7 | 11 | 5 | 5 | 29 | |||
高血圧 | 3 | 68 | 64 | 53 | 36 | 224 | 0 | 0 | 3 | 0 | 2 | 5 | |||
2009 | 血圧 区分 |
至適 | 149 | 544 | 209 | 45 | 4 | 951 | 84 | 294 | 91 | 31 | 5 | 505 | |
正常 | 50 | 257 | 190 | 77 | 11 | 585 | 5 | 35 | 15 | 4 | 2 | 61 | |||
正常高値 | 11 | 157 | 121 | 68 | 27 | 384 | 4 | 14 | 11 | 3 | 3 | 35 | |||
高血圧 | 5 | 52 | 59 | 40 | 28 | 184 | 0 | 0 | 3 | 2 | 4 | 9 | |||
2010 | 血圧 区分 |
至適 | 151 | 491 | 215 | 78 | 8 | 943 | 96 | 298 | 98 | 33 | 1 | 526 | |
正常 | 63 | 295 | 184 | 83 | 11 | 636 | 9 | 32 | 26 | 13 | 6 | 86 | |||
正常高値 | 23 | 147 | 123 | 86 | 27 | 406 | 2 | 6 | 7 | 7 | 1 | 23 | |||
高血圧 | 4 | 42 | 58 | 51 | 25 | 180 | 0 | 3 | 1 | 4 | 4 | 12 | |||
2011 | 血圧 区分 |
至適 | 182 | 533 | 205 | 60 | 20 | 1000 | 92 | 239 | 112 | 33 | 7 | 483 | |
正常 | 44 | 295 | 191 | 85 | 21 | 636 | 8 | 32 | 29 | 9 | 1 | 79 | |||
正常高値 | 16 | 114 | 150 | 58 | 27 | 365 | 5 | 5 | 2 | 3 | 0 | 15 | |||
高血圧 | 6 | 43 | 50 | 56 | 31 | 186 | 0 | 0 | 3 | 1 | 3 | 7 | |||
2012 | 血圧 区分 |
至適 | 123 | 454 | 163 | 57 | 8 | 805 | 69 | 276 | 117 | 29 | 5 | 496 | |
正常 | 41 | 261 | 177 | 86 | 21 | 586 | 9 | 39 | 19 | 11 | 3 | 81 | |||
正常高値 | 14 | 150 | 115 | 78 | 27 | 384 | 2 | 9 | 5 | 8 | 2 | 26 | |||
高血圧 | 4 | 45 | 53 | 61 | 20 | 183 | 1 | 1 | 0 | 4 | 1 | 7 | |||
2013 | 血圧 区分 |
至適 | 134 | 497 | 187 | 64 | 12 | 894 | 86 | 266 | 85 | 33 | 4 | 474 | |
正常 | 32 | 305 | 217 | 80 | 20 | 654 | 7 | 33 | 12 | 13 | 5 | 70 | |||
正常高値 | 12 | 117 | 128 | 91 | 28 | 376 | 3 | 8 | 8 | 9 | 1 | 29 | |||
高血圧 | 3 | 55 | 44 | 44 | 30 | 176 | 1 | 2 | 1 | 1 | 0 | 5 | |||
2014 | 血圧 区分 |
至適 | 142 | 460 | 223 | 57 | 11 | 893 | 77 | 253 | 129 | 28 | 5 | 492 | |
正常 | 43 | 270 | 207 | 91 | 16 | 627 | 8 | 24 | 18 | 12 | 5 | 67 | |||
正常高値 | 9 | 111 | 115 | 68 | 27 | 330 | 3 | 11 | 6 | 1 | 3 | 24 | |||
高血圧 | 6 | 36 | 59 | 43 | 26 | 170 | 0 | 4 | 4 | 3 | 1 | 12 | |||
2015 | 血圧 区分 |
至適 | 142 | 446 | 175 | 45 | 7 | 815 | 83 | 237 | 104 | 29 | 2 | 455 | |
正常 | 82 | 309 | 177 | 89 | 23 | 680 | 6 | 44 | 32 | 9 | 7 | 98 | |||
正常高値 | 18 | 153 | 107 | 70 | 17 | 365 | 2 | 8 | 4 | 2 | 3 | 19 | |||
高血圧 | 6 | 50 | 52 | 41 | 16 | 165 | 0 | 2 | 1 | 2 | 1 | 6 | |||
2016 | 血圧 区分 |
至適 | 181 | 474 | 210 | 52 | 14 | 931 | 87 | 271 | 119 | 30 | 12 | 519 | |
正常 | 68 | 323 | 213 | 79 | 19 | 702 | 10 | 33 | 30 | 10 | 1 | 84 | |||
正常高値 | 16 | 117 | 127 | 71 | 24 | 355 | 4 | 7 | 6 | 3 | 3 | 23 | |||
高血圧 | 7 | 32 | 56 | 61 | 27 | 183 | 1 | 2 | 0 | 2 | 1 | 6 | |||
2017 | 血圧 区分 |
至適 | 187 | 538 | 256 | 69 | 13 | 1063 | 64 | 277 | 124 | 49 | 11 | 525 | |
正常 | 42 | 274 | 218 | 105 | 16 | 655 | 8 | 31 | 20 | 9 | 7 | 75 | |||
正常高値 | 15 | 114 | 98 | 49 | 29 | 305 | 3 | 5 | 3 | 4 | 1 | 16 | |||
高血圧 | 5 | 23 | 35 | 26 | 14 | 103 | 2 | 2 | 1 | 1 | 2 | 8 | |||
2018 | 血圧 区分 |
至適 | 168 | 575 | 254 | 76 | 10 | 1083 | 93 | 291 | 148 | 31 | 9 | 572 | |
正常 | 34 | 209 | 156 | 77 | 21 | 497 | 5 | 21 | 12 | 7 | 7 | 52 | |||
正常高値 | 8 | 55 | 65 | 48 | 16 | 192 | 1 | 4 | 6 | 3 | 0 | 14 | |||
高血圧 | 4 | 17 | 31 | 21 | 10 | 83 | 0 | 3 | 2 | 0 | 1 | 6 |
血圧区分:至適 SBP<120/DBP<80,正常 120≦SBP<130/80≦DBP<85,正常高値 130≦SBP<140/85≦DBP<90,高血圧 140≦SBP/90≦DBP(mmHg)(SBP収縮期血圧,DBP拡張期血圧)
BMI区分:低体重 BMI<18.5,普通低値 18.5≦BMI<22,普通高値 22≦BMI<25,肥満I度 25≦BMI<30,肥満II度 30≦BMI(kg/m2)
BMI区分と血圧区分の関係
そこで,肥満者における高血圧者の割合の経年推移を検討した。図3は,肥満I度とII度以上の対象者における高血圧有病率を暦年に対してプロットしたものである。肥満II度以上の学生では,高血圧有病率が有意に低下してきたことがわかる。肥満I度の対象者では,男子学生の高血圧有病率が低下しているように見えるが,有意ではなかった。
肥満者における高血圧有病率の経年推移
上述の分析では,BMI≧25の肥満者における高血圧有病率を検討した。しかし,学生全体を見るとBMI<15の非常に痩せた者から40<BMIの著しい肥満者までいる。そこで毎年の新入生についてBMI値と血圧値の関係をプロットして直線回帰を試みた。図4には,例として2008年の成績を提示している。SBP値あるいはDBP値を縦軸に,BMI値を横軸にして,両者間に有意の単相関が認められることを示し,そのうえで回帰直線の傾きと血圧値の変動に対するBMI値の寄与率を算出した。
BMI値と血圧値の関係
この作業を年毎に行い,回帰直線の傾きと寄与率の経年変化を男子学生(図5a)と女子学生(図5b)に分けて示した。男子学生では,BMIとSBP,DBPの間に有意の相関が認められたが,その回帰直線の傾きは経年的に低下していた。また,DBPに対するBMIの寄与率も経年的な低下を示した(図5a)。女子学生では,2014,2015,2017年にはBMIとDBPの相関が有意ではなかった。それでも,回帰直線の傾きや寄与率を数値としては算出できるので,その値を用いて,経年推移を検討した。その結果,SBP,DBPともに,BMIとの間の回帰直線の傾きも,血圧変動に対するBMIの寄与率も経年的に低下していた(図5b)。
BMI vs 血圧:回帰直線の傾きと寄与率の経年推移 ― 男
BMI vs 血圧:回帰直線の傾きと寄与率の経年推移 ― 女
血圧には,BMIのみならず,他の多くの要因が関与する。そこで,男子学生では高血圧か否か,女子学生では正常高値血圧以上か否かを目的変数として,肥満(BMI≧25)の寄与を多重ロジスティック回帰分析によって検討した。説明変数としては,肥満の有無のほかに,健康診断時に自記式の生活習慣調査で調べた健康状態の自己評価11),運動習慣12),朝食摂取13),喫煙習慣14),居住形態(一人暮らしか否か)15)を採用した(図6)。肥満以外の因子の影響を調整すると,毎年のオッズ比は男子学生では概ね4で,有意の経年変化は示さなかった。女子学生ではオッズ比が低下してきたように見えるが,有意水準には至らなかった。
多重ロジスティック回帰分析で算出した肥満のオッズ比
目的変数 血圧<140/90 vs ≧140/90 mmHg(男子学生)
血圧<130/85 vs ≧130/85 mmHg(女子学生)
今回の検討では,2008年から2018年にかけて,男子学生の入学時のSBP平均値は低下し(図1),それは肥満者で顕著な,高血圧有病率の低下として検出された(図2,図3)。この所見は,女子学生でも肥満II度以上になると有意の高血圧有病率の低下として確認された(図2,図3)。したがって,肥満は高血圧に関与するが,その関与の程度が低くなってきたのではないかと考えられた。
学生の体型をみると,非常に痩せた者から著しい肥満者まで様々である。血圧値も大半は正常血圧~至適血圧のレベルにある。そこで,学生のBMI値と血圧値の間の相関関係を入学年毎に検討した(図4,図5a,図5b)。女子学生におけるSBPの変動に対するBMIの寄与率が一定の経年的な変動を示さなかったのを除き,男女ともに,BMI値と血圧値の間の回帰直線の傾きも寄与率も,経年的に低下した。回帰直線の傾きが低下してきたことは,BMIの増加が血圧上昇に及ぼす影響が小さくなってきたことを示しており,セーシェル共和国8)やドイツ9)から報告された成績と軌を一にするものである。
今回は,さらにBMIの寄与率も検討しており,これの低下は両者の結びつきが弱くなったことを(図4の散布図でいえば,回帰直線から離れた点が増えてきたこと)示している。
Nagaiらは10),1980年から2010年までの国民健康・栄養調査の成績を10年毎に検討し,年齢,喫煙状況,アルコール消費量,食塩摂取量の影響を調整すると,過体重(BMI≧25)ないし肥満(BMI≧30)の対象者は,普通体重の対象者に比べて,高血圧合併のオッズ比が高くなってきたと述べた10)。今回の対象者は2008年から2018年までの単一大学の学部新入生で,4月初めの定期健康診断の成績を分析した。大半が18あるいは19歳で,僅かに20歳以上の学生を含む。また,大学入学直後の時点では,ほとんど全員が非飲酒者である。したがって,年齢とアルコール摂取量は調整因子に含めなかった。一方,血圧値や高血圧発症への影響が報告されている健康状態の自己評価11),運動習慣12),朝食摂取13),喫煙習慣14),居住形態15)については,それらの影響を補正した。その結果,BMI≧25で規定される肥満の影響は,少なくとも増してはいなかった(図6)。
今回の成績は,一見するとNagaiらの成績10)と合わない。しかし,彼らは国民健康・栄養調査の成績を分析しており,対象者の年齢は30~79歳である。今回の研究対象とは全く異なる。若年者においては高血圧に対する肥満の寄与が小さくなっているが,肥満を軽視してよいわけではない。30歳以降の中・高年者ではむしろ肥満の影響が顕著になっている10)ことを考えると,大学を卒業してからの数年間で,体重を増やさないよう食生活や運動に気を配ることがより大切になる。今回の成績は,卒後の生活を見据えた健康教育が重要であることを示している。
今回は食塩摂取量の影響を調整できなかった。食塩摂取量が多いと,血圧が高いことは一般的な認識である16)17)。したがって,これは,血圧に対する肥満の影響を知るうえで,大きな制限となるかも知れない。しかし,2012年から2018年の大学女子新入生を対象に,スポット尿で食塩排泄量を測定して得た1日食塩摂取量の推定値と血圧の関係を見たところ,両者の間には有意の関係を見いだせなかったという18)。この研究では,推定食塩摂取量は5.56 g/日未満から8.12 g/日以上の範囲に分布していた18)。これは,平成30年の国民健康・栄養調査で報告された日本人若年女性の食塩摂取量が平均8.8g/日であった19)ことと比べると,明らかに低い。マレーシアの大学生を対象とした調査20)では,もっと食塩摂取量の多い集団を対象にした。食塩摂取量は5.71g/日から20.02g/日の範囲に分布したが,SBPと食塩摂取量の関連は有意ではなかった。しかし,この調査では対象者の数が少なく,結論を急ぐことは出来ない。
ただ,大学生を対象にした2つの研究で18)20),ともに食塩摂取量と血圧の間に,有意の関係を見出しえなかった。したがって,若年者において,BMIと血圧値の間の関係を検討するうえで,食塩摂取量の調整は必須ではないのかも知れない。
BMIと血圧区分の関係は肥満者から低体重者まで直線的一方,BMI区分が肥満者から低体重者まで低下すると,至適血圧レベルの学生が増え,男性では正常高値~高血圧レベルの学生が,女性では正常血圧~高血圧レベルの学生が減っていた(図2,図4)。特に,普通体重以下では,この関係は直線的で,検討した期間を通じて認められた。
普通体重以上の中高年者21)や学生22)を対象にした研究で,BMIが増すと高血圧者が増え,非高血圧者が減ることが,すでに報告されている。これまで,低体重域まで検討した成績は少なく,成績も一致していない。アフリカの中高年者を対象にしたある研究では,性差が明らかで,男性では低体重域での血圧低下がみられず,女性では,低体重域でより顕著に血圧が低下した23)。ところが,アフリカやカリブ海諸国の人々を対象にした他の研究では,逆に,男性でBMIが低下すると直線的に血圧値も低下し,女性では普通体重から低体重にかけて血圧は殆ど変わらないか,わずかに上昇していた24)。今回の検討では,普通体重をBMI値22で二分し,さらにBMI<18の低体重者も含めて,各血圧区分の割合を検討し,男女ともに普通体重以下ではBMI区分と血圧区分の関係は,直線的であることを示した。毎年の女子学生の数が499~647人と少ないので,確定的なことは言い難いが,図2に示したように,普通体重以下でBMI区分と血圧区分の間に直線的な関係がみられたという点では,性差は検出できない。
2008年から11年間の大学新入生の健診成績を分析し,BMIと血圧の関係を調べた。この11年間,肥満者に高血圧者が多く,低体重者には至適血圧者が多いのは,一貫して認められるが,BMIと血圧値の回帰直線の傾きは低下してきており,さらに血圧値に対するBMIの寄与率も少なくなった。若年者では,高血圧への肥満の寄与が近年になって低下した可能性が示唆された。これを念頭に置いた健康教育が必要である。
本論文に関して,開示すべきCOI状態はない。