人間科学
Online ISSN : 2434-4753
総説
女性精神保健福祉士の「仕事と子育ての両立」に関する研究動向と課題
藤原 朋恵住友 雄資
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2022 年 4 巻 p. 1-9

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抄録

本総説論文の目的は,女性医療職の「仕事と子育ての両立」に関する研究動向から,女性の精神保健福祉士の「仕事と子育ての両立」に関する課題について明らかにすることである。全業種の中で正社員の女性率が高い「医療・福祉」の業種は,育児休業制度などの活用も行われているが,「医療・福祉」分野で働く女性は「結婚」「出産」「育児」などのライフイベントを契機に離職することが多い。一方,精神保健福祉士の歴史は比較的浅く,医療専門職の中でも「仕事と子育ての両立」についての研究は行われていない。「医療・福祉」分野で働く専門職(医師,看護師など)の「仕事と子育ての両立」に関する研究の動向をみると,多くの研究の蓄積がある。これらの研究から得た知見をもとに女性精神保健福祉士の離職予防のためには,「仕事と子育ての両立」が行える制度活用及び制度活用支援,職場環境及び人間関係,復職支援などの研究課題があることを明らかにした。

Abstract

The purpose of this review article is to clarify the issues related to “balance between work and childcare” of Female Mental Health Social Worker from the research trends on “balance between work and childcare” of female medical professionals. In comparison with all type of job, many female workers act on the field of medical/ welfare and the system is being utilized. However, women working in the “medical and welfare” fields often leave their jobs after life events such as “marriage,” “childbirth,” and “childcare.” On the other hand, the history of mental health welfare workers is relatively short, and there has been no research on “balancing work and childcare” among the medical professions. Much research has been undertaking on on “balance between work and childcare” of the profession (doctor, nurse, etc.) working in the field of medical care and welfare. Based on the findings obtained from these studies, the following issues were shown in order to prevent female mental health workers from leaving the company in the future; utilizing system and helping to utilize system, the work environment, personal relations at work, support for returning to work.

1. はじめに

本総説論文は,医療機関・福祉機関で働く女性の「仕事と子育ての両立」に関する現状とその研究動向から,女性精神保健福祉士に関する課題の抽出を目的とする(本稿では,女性の精神保健福祉士を「女性精神保健福祉士」として使用する)。

内閣府‍1)から,「就労者の多くが仕事を優先することによって,ワーク・ライフ・バランス‍注1)の希望を実現できていない状況や,女性が家事に多くの時間を費やしたり,ライフイベントを機に離職を選択している状況があること(内閣府2020: 4)」が示され,社会全体としてワーク・ライフ・バランスを実現するために,家事・育児等の家庭責任が女性に偏っている状況を解決する必要性が述べられている。厚生労働省雇用環境・均等局‍2)の調査では,2019(令和元)年の女性雇用者数は2,720万人であり,前年度より1.8%増加し,10年前と比較すると14.6%増加しており,女性が働くことで生じる課題が明らかになってきている。その課題の一つとして,働く女性の育児・介護期の仕事と家庭の両立の困難さがあり,その継続就業を図るための支援策の充実が述べられている。三菱UFJリサーチ&コンサルティング‍3)によると,仕事と育児の両立支援を行う必要性について,男女の社員へたずねた結果,男性社員が必要性を感じていると割合は55.9%だったのに対し,女性社員は80.9%だった。近年,女性の育児休業取得率は82.2%と高く制度利用が定着している。その一方出産を機に離職している女性が半数近くいる状況があ‍ることも報告されており,より有効な支援策が望まれる。

女性一般の働く現状を踏まえ,次に女性の比率が高い医療・福祉職に焦点をあててみる。

正社員に占める女性比率が高いのが,「医療・福祉」の業種である。育児休業取得や短時間勤務制度の利用者がいる割合も全業種で2番目に高いが,「女性が育児休業を取得しなかった理由」をみると,「産後休業中または産後休業終了後に離職したため」と回答した割合が,35.8%と全業種中3番目に高い割合だった(三菱UFJリサーチ&コンサルティング2018)‍3)

女性が多く働く医療・福祉の業種には医師や看護師,作業療法士・理学療法士,公認心理師,社会福祉士・介護福祉士など国家資格を有する様々な専門職が含まれている。各専門職は,その資格が生まれた背景や歴史,職務内容が異なっている。精神保健福祉士はこれらの職種と比較し歴史が浅い職種である。それゆえ実践および研究の蓄積が他の職種に比べて相対的に少ないと言える。

精神保健福祉士は国家試験合格者数過去5年間‍4)~8)の男女比が約3:7と女性の割合が多い職種であり,医療,福祉,教育,労働,司法,企業など多岐に渡って従事している。しかし,精神保健福祉士の配置状況は,職場によって1名もしくは少数の場合があり,個人に負担や責任がかかる実態にある。

精神保健福祉士の離職要因を調査した公益財団法人社会福祉振興・試験センター‍9)によれば,「今後仕事をしていくうえで最も重視すること」,「以前の福祉・介護・医療分野の職場を辞めた最も大きな理由」,「再び福祉・介護・医療分野の仕事に復職したきっかけや動機」のいずれの項目でも,男性より女性の方が高い回答割合のものは,心身の健康状態,勤務形態,育児や介護の支援についてである。女性精神保健福祉士が継続して仕事に従事するには,男性に比べると自身のライフイベントや生活・健康状態に応じた支援や勤務形態などの職場環境が必要であることが推測できる。

このことから,本研究では女性のライフイベントの一つであり,離職要因の一つにもなる「育児」に焦点をあて,女性の精神保健福祉士が子育てをしながらも継続的に仕事が行えるために「仕事と子育ての両立」に関する研究課題を明らかにする。

2. 医療・福祉職の実態

(1) 「医療・福祉職」各職種の男女比

本研究で対象とする,医療・福祉職の実態を把握するために各職種の男女比についてまとめる。

医師,看護師は厚生労働省の統計資料から男女比をみると,医療施設に従事する医師数の男女比が約8:2‍10),就業看護師数の男女比が約1:9であった‍11)

理学療法士,作業療法士,臨床心理士は職能団体の会員登録データを参考とし男女比をみた。理学療法士国家試験合格者約7割が所属する日本理学療法士協会登録会員の男女比は約6:4である‍12)。作業療法士有資格者に対する組織率約66.1%の日本作業療法士協会会員の男女比は約4:6である‍13)。臨床心理士の約6割が登録している日本臨床心理士会会員の男女比は約2:8である‍14)

公認心理師,社会福祉士,介護福祉士については,過去5年間の国家試験合格者の資料を参考に男女比をみた。公認心理師の男女比は約3:7‍15)~18),社会福祉士の男女比は約3:7‍19)~23),介護福祉士の男女比は約3:7‍24)~28)であった。

以上のことから,資格取得者の男女比率をみると,医師や理学療法士を除くと,ほとんどの職種が男性より女性の割合が高いことがわかる。

(2) 業種別にみた医療・福祉の業種の離職要因

まずは,全業種と比較した,医療・福祉の業種の離職要因について記す。厚生労働省雇用環境・均等局‍29)によると,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の取れた働き方を実現することを重要としており,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章‍注2)や第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略‍注3)などにおいて,女性の第1子出産前後の継続就業率の目標をかかげ,取り組みが行われている。

また,「医療・福祉」の業種は正社員の女性比率が高く,業種別の「結婚による離職の状況」の結果では,「結婚で離職する女性も少数派だがいる」「結婚で離職する女性が多い」「結婚でほとんど離職する」を合わせると,39.3%で全体の3番目に割合が高い。「妊娠・出産による離職の状況」の結果を「妊娠・出産で離職する女性も少数派だがいる」「妊娠・出産で離職する女性が多い」「妊娠・出産でほとんど離職する」を合わせると,25.9%とこちらも3番目に割合が高かった(三菱UFJリサーチ&コンサルティング2018)‍3)

以上のことから,離職要因として「結婚」,「出産・育児」は男女で比べると女性が多く,正社員の女性比率が高い「医療・福祉職」であるが,他の業種と同様「結婚」,「出産・育児」で離職するものも一定数いることが分かる。次に,「医療・福祉職」の各職種に着目し離職要因の実態についてふれる。

(3) 女性の「医療・福祉職」各職種の離職要因の実態

先に述べたように,「医療・福祉職」は女性が多く働く職種である。

そこで,各職種の離職要因を男女で比べると,男性と比較し女性は「結婚」「出産」「育児」などの理由で離職することが共通である。

以上のことから,有職女性の離職要因の一つに「結婚」「出産」「育児」が一定数あり,「医療・福祉職」の女性も同様,男性に比べ「結婚」「出産」「育児」を理由に離職する。ライフイベントに応じて仕事が両立できる職場環境を整えていくことが離職を軽減するための一助になると考えられる。次からは,ライフイベントでも「育児」に着目し,「仕事と育児の両立」に関する先行研究をみていく。

3. 有職女性の実態についての研究

ここからは一般的な有職女性の「仕事と子育ての両立」に関する研究動向を述べる。篠塚‍30)は,有業者の男女に対して,「心の病」の通院者数を比較したところ,女性の方が13%多く,有業者総数が女性よりも男性の方が4割強も多い実態から,「仕事をしている女性の場合,結婚,妊娠,出産,子育ては男性には相対的に少ない負担が,一段と母親としての女性の方にのしかかる。明らかにこのストレス発生はジェンダー・ギャップそのものといえよう」と述べている(篠塚2007: 264)。池田‍31)は,「出産・育児は仕事との両立が最も難しいライフイベントであり,依然として多くの女性が出産・育児期に退職している。出産・育児期の就業中断はその後の仕事の処遇だけでなく,両立負担やメンタルヘルスにも望ましくない影響を及ぼす可能性がある。」と述べている(池田2010: 27)。坂爪‍32)は,女性のキャリア形成の課題として,育児との両立が困難と認識する労働時間にあると言い,キャリア形成については,両立支援の利用により,キャリア・プラトー‍注4)やフレキシビリティ・スティグマ‍注5)が生まれる。そのため,制度を利用することで生じるキャリアの停滞や不利益といった課題を回避することが重要な課題であると述べている。永瀬ら‍33)は,育児休業取得した高学歴女性を対象にインタビュー調査を行い,5年前と比べると子育てと仕事の両立を支援する企業風土が改善しているが,育児休業の取得により評価が下がったり,短時間勤務制度を利用することにより,やりたいことができなくなったり,学ぶ機会が減少するなどの影響があると述べている。

有職女性の研究動向をみていくと,有職女性がキャリア継続及びキャリア形成するなかで,両立支援の課題,メンタル・ヘルスの課題,働き方の課題などについて統計調査などをもとに研究したものや,対象を高学歴女性に対しインタビューから課題を導き出す研究など幅広く行われている。女性がキャリア継続するなかで女性特有の課題として,結婚・出産・育児と仕事との両立が共通して明らかになっている。また,両立の支援を受けることでキャリアの停滞や不利益が生じることについても明らかにされてきた。

次に,各医療・福祉職の「仕事と子育ての両立」に限定して研究動向を見ていく。

4. 女性医師の「仕事と子育ての両立」に関する研究

まずは,医療・福祉職の中で最も歴史が古い,女性医師の「仕事と子育ての両立」に関する研究を概観する。

米本‍34)は,女性医師のワーク・ライフ・バランスにおける現状の課題の一つとして,行政や勤務先病院による子育てサポートの不十分さ,および,周囲に先輩やロールモデルが存在せずサポート情報がうまく伝わらないケースが課題と述べている。操ら‍35)は,「様々な状況にある職員が出産・育児といったライフイベントに際しても就労継続できる環境が必要である」と述べている(操ら2016: 664)。小笠原‍36)は,「多くの女性医師は出産・育児を経ても働き続けられる環境の整備および一時休業せざるを得なかった場合の復帰支援を求めている。」,「多くの女性医師は意思決定に関わる立場,指導的立場に女性が少ないことに問題を感じ,男性中心の医療界の意識改革の必要性を訴えている。」と報告している(小笠原2013: 433, 434)。豊田ら‍37)は,「多くの人が出産後に働き方を変えており,育児と仕事の両立に悩んでいた。育児と仕事を両立させたいと思っても,家庭・育児事情と勤務条件が合わず働き方を考えている人が多いと考えられる。」と述べている(豊田ら2016: 92)。

先行研究をみると,医師は男性が中心の職業だったため,「仕事と子育ての両立」という視点で職場環境が作られてこなかったことが考えられる。そのため,「仕事と子育ての両立」という課題が医師の課題ではなく,女性の医師の課題として,また,女性の医師を取り巻く職場環境に対する課題として研究がなされてきてい‍る。

5. 女性看護師の「仕事と子育ての両立」に関する研究

次に医療・福祉職の中でも,女性が働く割合が特に高い女性看護師についての研究動向である。女性看護師についての研究は,離職,ワーク・ライフ・バランス,キャリア形成などについてされており,「仕事と子育ての両立」に関係する研究も様々な視点から実施されているため,「仕事と子育ての両立」と「休業後の復職支援」について分けて研究動向を見ていく。

(1) 「仕事と子育ての両立」についての研究

岩谷ら‍38)によると,「育児休業明け2年未満の看護職のWLB(Work-life balance以下WLBとする)実現に向けて上司は具体的な支援を,対象者のニーズに合わせて推進していくことの必要性が示唆された」と結論づけている(岩谷ら2020: 8)。高見ら‍39)は,子育て看護師のWLB実現に関連する支援として,育児休暇,出退勤の柔軟化,仕事量の軽減などをあげ,これらの支援導入をすすめるとともに,仕事と家庭の両立の手助けとして機能しているか把握し,利用者が満足する支援内容へ改善することが求められているとする。山本ら‍40)は,看護師が子育てをしながら仕事を継続させていく工夫として,看護師が家事と育児のための計画的な時間調整を行い上司へ交渉できる,また,管理者や同僚は子どものいる看護師を理解し交渉に応じられる体制づくりが必要であると述べている。併せて,同じ経験をしている看護師に相談できることがストレスの軽減や意欲向上につながることから,子育て中の看護者が同じ職場に複数いることが望ましいという。河本は‍41)「未就学児を育児しながら,看護師の仕事を継続するために,現実可能なキャリアプランについて,職場や職場以外からの支援体制や支援環境を検討し,現実に即した働き方を自らが選択できるようにすることが,看護師の離職理由の上位である育児を理由とした離職を予防する一助となる」と述べている(河本2020: 204)。近末‍42)は,子育て中の看護職は,仕事・家庭・自己の生活の充実感が互いに好循環することで,看護専門職として自ら描くキャリア・デザインを中断せず成長し続けることができると考えられると述べている。

以上の研究では,子供を持つ女性のワーク・ライフ・バランスについてアンケートやインタビュー調査を行う中で,「仕事と育児の両立」という視点を軸に研究を行っている傾向がある。また,「仕事と育児の両立」を行うことができる環境について研究されている中で,具体的には上司や同僚との関係の重要性について明らかにしている。これは,女性看護師が一つの部署に配属される人数が多いという特徴が影響していることが推測される。

(2) 休業後の復職支援に関する研究

近藤‍43)は,産前・産後休暇や育児休業を取り,復帰した看護職員は,休業中に変化のあった病院のコンピューターシステムや,新たに配属された部署における疾患や治療などについての研修を復帰時に受ける希望について述べている。松浦‍44)は看護師の結婚,出産による離職者の増加に伴う対応を模索した。育児休業を取得する看護師の職場復帰に向けて情報提供や連絡,研修などの提供を行うことができる部署を設置し,インターネットプログラムの開発を行ったことを報告している。

駒形ら‍45)は,離職期間を経て復職した看護職において,ワークライフバランス実現度には仕事の質的負担や働きがい,子供の有無,雇用形態が関連することを明らかにしている。そして,「子供がいたり正規職員として勤務する者に対しては,WLB実現度の低下がないか,より一層の配慮が必要と示唆された」と述べている(駒形2019: 166)。伊禮ら‍46)は,育児休業から復職する看護師の適応プロセスとして,「(1)復職前の漠然とした不安から,精神的に落ち着くには3ヶ月の期間を要していた。(2)復職の適応プロセスをロイの適応モデルに当てはめると,ほぼ3ヶ月では生理的機能並びに自己懸念について適応していた。(3)周囲との相互依存や役割を果たすには6ヶ月の期間を要し,キャリア形成に対する意欲も見られた。」と述べている(伊禮2005: 203)。

藤田ら‍47)の研究では,産前産後・育児休業を取得後に職場復帰した看護師が,職場復帰を行う際の不安や戸惑いの軽減に対する取り組みとして,専門知識の復習などを育児の合間で行っているため,簡便で短時間から在宅学習できる学習支援プログラムの必要性を述べている。また,組織は産前産後休業に入る前から復職後まで継続的な関わりを行い,いつでも相談できる体制があることを明確にする必要性についても言及している。

以上のように,産前産後休業,育児休業明けに復職し継続的に働くための研修やシステム,支援などの必要性が明らかとなった。そして,復職後の適応のプロセス,研修制度,プログラムの開発など様々な研究がなされている。これらの研究は,主に一医療機関や法人の中で行われている。そのため,女性の看護師全体として共通する課題であるが,普遍化があるかまでの研究には至っていない。

女性看護師の「仕事と子育ての両立」に関する研究を見ていくと,女性看護師が子育てをしている環境や夫や家族のサポートの状況に応じて希望する働き方や利用する制度が異なる。そのため,働き方やサポートについて自身で選択できる環境が必要であることや,職場の上司や人間関係も影響を受けることが示されている。そして,専門性の高い医療技術も求められるため,復職する際の研修制度も求められている。個々の医療機関や法人では,研修プログラムやシステムの構築に留まっている可能性がある。

6. 作業療法士・理学療法士の「仕事と子育ての両立」に関する研究

次に,作業療法士・理学療法士についての「仕事と子育ての両立」についての研究動向を見ていく。

中元‍48)は,理学療法士は,回復期リハビリテーション病棟などの365日勤務体制や一般のクリニックなど勤務時間が遅くなる施設などの勤務場所があり,子育て世代の親が就労継続する上で支障となる時間的な課題だと述べている。小林ら‍49)は,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士が所属するリハビリテーション部に「妊産婦の窓口」を設置し,妊産婦の業務や体調の相談などを受け,業務分担やマタニティズボンの購入など職場の理解が得られるようになったという。また365日の勤務体制だけではなく,日曜日祝日休みの勤務体制が選択できるようになっている。そして,子育て世代が増加することで若い職員が子育て中の先輩を見ることができ,自身の将来像のロールモデルとなった結果,産休育休取得者の増加へつながっていると述べている。

片岡ら‍50)は,育児中の女性作業療法士(以下,OT)は生涯学習への関心は高いが,研修や学会などの生涯学習の機会への参加頻度が低く,それに対する満足度も低い現状にあることを明らかにした。また,「育児中のOTが生涯学習の機会へ満足に参加できない要因は,OT自身の家事育児を優先したいという思いとの葛藤と,参加によって家族の私生活に負担がかかるものとなる場合に生じる」と述べている(片岡ら2019: 291)。

先行研究をみると,数は少なく女性職員の職場環境,医療機関における支援システム,男女限らず生涯学習に対する意向についての報告であった。理学療法士・作業療法士ともに,職場により勤務体制が不規則であることや,技術職であることなどから,看護師や医師同様に,女性が継続的に働くための課題があることが推察できるが,「仕事と子育ての両立」に関する研究は少ない。

7. 臨床心理士・公認心理師の「仕事と子育ての両立」に関する研究

公認心理師が生まれて間もないことから,それに深く関係する臨床心理士について述べる。

曽山ら‍51)は,第1子を出産後3年以内の女性臨床心理士に焦点を当て,キャリア選択における諸要因を明らかにするインタビューを行っている。

臨床心理士・公認心理師は,女性が多く働く職種であり,雇用形態が非常勤の者が約半数で,常勤職員として継続的に同職場で働くものが他の職種より少ないことが特徴としてある。そのためか,自身の離職について,「仕事と子育ての両立」についての研究が少ない。

8. 社会福祉士・介護福祉士の「仕事と子育ての両立」に関する研究

社会福祉士を対象とした,「仕事と子育ての両立」に関連する研究が見られなかったが,介護福祉士のそれは次の研究がある。

「介護職の場合は,一度離職をしても,介護人材の慢性的不足の為,再就職がしやすいこと,介護現場の多様化により非常勤や夜勤なしの勤務など状況に応じて働ける柔軟さがある。これらのことから,一つの職場にとどまり続けるのではなく,ライフイベントを考慮しながらキャリアを積んでいるといえる」(鈴木ら2015: 104)‍52)。「保育料の軽減,育児休業後の勤務時間の短縮,育児休業期間の延長などの体制を整えることにより,女性介護職員は復職しやすくなるのではないか」と述べている(冨士原2005: 90)‍53)

介護福祉士については,介護人材の不足から離職をしても再就職をしやすい状況があり,継続的に一つの職場で働くことが個人にとってメリットとならない可能性がある。また,短期間で離職や復職を繰り返すことは,賃金の向上やキャリア形成が行えないというデメリットも考えられる。

介護の現場や利用者としては,職員が定着することが機関の維持にもつながるため,女性の介護福祉士や社会福祉士が「仕事と子育ての両立」ができ継続的に働くことができる要因を明らかにすることは必要である。他の職種と同様,結婚・出産・育児などライフイベントに応じた働き方を行うことができる職場環境は今後の研究課題として求められる。

9. 女性精神保健福祉士の「仕事と子育ての両立」に関する研究

これまで女性の医療・福祉職について「仕事と子育ての両立」を取り上げた研究を見てきた。これらの研究蓄積に比べ,女性精神保健福祉士を取り上げた研究は,精神保健福祉士を含む女性ソーシャルワーカーのキャリアに着目した研究が主で,女性ソーシャルワーカーのライフヒストリーがどのように女性ソーシャルワーカーのキャリアに影響を及ぼすかを示したのは鈴木‍54)~56)のみである。この中で鈴木‍54)は,女性の結婚・出産・子育てがソーシャルワーカーとしての職業発展には直接影響せず,ライフコースや力量形成の契機についても男女の差はソーシャルワーカーには存在しないと述べている。このことから,男女においての就労継続の違いという視点でソーシャルワーカーについて研究をされることがなかったことが考えられる。

女性精神保健福祉士の「仕事と子育ての両立」に関する研究はない。精神保健福祉士が国家資格化して未だ20年余りで,他の医療・福祉職に比べ歴史が浅いことに研究蓄積の少なさの理由があると思われる。しかし女性精神保健福祉士の「仕事と子育ての両立」について着手しなくてよいということではない。出産・育児・介護などに直面する女性精神保健福祉士が抱える問題は「仕事と子育ての両立」だけではない可能性もある。今後,女性精神保健福祉士を取り上げた研究を推進していくことは喫緊の課題である。

10. 今後の研究課題

文献レビューから概観すると,有職女性,女性の医療・福祉職について,「仕事と子育ての両立」に関する研究が複数行われていた。そのなかでも文献数として突出しているのが女性看護師を対象とした研究である。しかし,精神保健福祉士について離職と関連する先行研究では,バーンアウトや職業性ストレスなどの研究が主であり,「仕事と子育ての両立」に関する研究がな‍い。

女性の医療・福祉職の「仕事と子育ての両立」に関する文献レビューから,共通点もあるが各職種独自の課題も見えてきた。そのため,女性精神保健福祉士についても「仕事と子育ての両立」に関する研究を行うにあたって,共通点と同時に職種独自の課題を明らかにすることも必要である。今後の研究の蓄積から離職軽減の一助になることが求められる。

以下に,女性の医療・福祉職の「仕事と子育ての両立」に関する現状とその研究動向から導く形で,女性精神保健福祉士にも適用可能な「仕事と子育ての両立」に関する研究課題を7点挙げる。

(1) 「仕事と子育ての両立」が行えるための制度活用

産前・産後休暇,育児休業,短時間勤務,フレックスタイム制度,病院内保育,ベビーシッターなど,「仕事と子育ての両立」を行いやすくするための制度がある。各職種の状況を見ても,制度利用に関するニーズがそれぞれ出ていた。各職種により,職場環境が異なるため,女性精神保健福祉士が個人のニーズに応じて各制度の活用が行えているのか,また,活用したいが活用できない状況があるのか実態を把握し,職種の特性に応じた制度活用方法を検討することが必要である。

(2) 「仕事と子育ての両立」が行えるための制度活用支援

制度があっても,その制度を活用できなければ制度の意味をなさない。制度を利用するための情報提供,制度を活用することの周囲(職場)の理解や,制度活用について相談しやすい環境などの制度を活用する支援体制がなければ,「仕事と子育ての両立」のために活用が難しい。制度活用の支援についても,職種ごとの働き方や勤務方法の特性により,異なることがうかがえた。そのため,女性精神保健福祉士が「仕事と子育ての両立」ができるために,制度活用支援の実態の把握及びニーズに合わせた対応が行えるための支援について明らかにすることが必要である。

(3) 乳幼児期・学童期・思春期など子どもの発達段階に応じて精神保健福祉士が「仕事と子育ての両立」を行えるための制度活用・制度利用支援

子どもの発達段階に応じて,親子の関係や親が子供にかかる時間,内容などが変化する。そのため,働き方もそれに対応することで「仕事と子育ての両立」が行いやすくなる。子どもの発達段階に応じた女性精神保健福祉士の働き方に対するニーズを明らかにし,それに応じた働き方が行える制度利用支援を検討することが必要である。例えば,乳幼児期であれば,子どもは病気にかかりやすく,保育園からの呼び出しや病児保育に預けるなど遅刻・早退に対応しやすい時間休などの制度活用である。女性精神保健福祉士の子どもや家庭の状況に合わせた勤務が行えるような制度を整え,制度活用が行える支援が必要とされる。

(4) 「仕事と子育ての両立」のロールモデルの存在

女性看護師の研究にもあったように,子どもを持ったスタッフが2人以上いると職務満足度が高まることが明らかとされている。女性看護師や理学療法士の研究をみると,同職種の同僚が多いことから,「仕事と子育ての両立」のロールモデルがいることにより,結婚,出産,育児を経験して仕事を継続するイメージにつながり,就労継続を行う安心できる環境につながることが推察できる。これに対し,精神保健福祉士は働く機関により,1名や少数の職場も数多くある。ロールモデルがいない状況で,「仕事と子育ての両立」を行うイメージが持ちにくく,「仕事と子育ての両立」を行うには自分で環境を作っていくことも必要である。そこで,女性精神保健福祉士がロールモデルがない中,「仕事と子育ての両立」を行う環境を作っていくための方法などを明らかにしていくことが求められる。

(5) 上司による「仕事と子育ての両立」支援

女性看護師や理学療法士の研究より,職場上司からの支援があることも重要であることが明らかとなった。また,結婚,出産,育児についての相談ができるシステムを作ることや,業務調整などが行われることが,「仕事と子育ての両立」につながっている。上司の支援の重要性について明らかとなっているが,上司が同性なのか同職種なのかなどにより,相談できる内容も異なってくることが考えられる。上司も必ずしも同職種ではなく,事務職員や看護職など別の職種となることがある。その際に,精神保健福祉士としての業務についての引継ぎや,復職後の業務のフォロー体制,復職に向けた研修などに課題が生じる。

(6) 産前産後休暇及び育児休業明けの復職支援

復職にあたり,女性精神保健福祉士も職場により,配属部署が異なることがある。復職後の配属先がどうなるのか,新しい部署への不安,復職に対する不安は具体的にどのようなことか明らかにし,それに対して,教育的・支持的・管理的なサポートが職場でどのように行われているのか,またその課題について明らかにする必要がある。

(7) キャリア・アップ支援

子育てをしながらでも専門性や知識,技術の向上,キャリア・アップを目指したいというニーズがあることは明らかになった。また,女性看護師の先行研究では,子育ての経験がキャリアの成熟となるとあったが,女性ソーシャルワーカーの先行研究では,ソーシャルワーカーとしての職業発展には直接影響しないとの見解もあった。そのため,子育ての経験が自身のキャリア形成に影響するのかについて職種差があるのかを検討していくことも必要である。また,キャリア・アップするために,女性精神保健福祉士ではどのような仕組みが必要なのか,明らかにし環境を整えていくことが必要である。

注1)  ワーク・ライフ・バランス(Work-life balance; WLB)は,「仕事と生活の調和」と表されている。仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章(2007)によると,仕事と生活の調和の実現した社会を「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き,仕事上の責任を果たすとともに,家庭や地域生活などにおいても,子育て期,中高年期といった人生の各段階に応じて多様な働き方が選択・実現できる社会」としている‍57)。このことより,ワーク・ライフ・バランスは,対象は全ての国民である。

注2)  「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」

2007年に,「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」において「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」は,国民的な取組の大きな方向性を示すもの,「仕事と生活の調和推進のための行動指針」は,企業や働く者等の効果的な取組,国や地方公共団体の施策の方針を示すものとして策定された‍58)

注3)  第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」

地方創生を目的に政府一体となって取り組むため,「まち・ひと・しごと創生法(2014)」が制定し,内閣にまち・ひと・しごと創生本部が設置された。そして,「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」の策定,5か年の目標や施策の基本的方向等をまとめた,第1期(2015–2019年度)の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定。第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が2020年度を初年度として,第1期の戦略を継続するとともに検証しながら5か年の目標や施策の策定がされている(内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局2019)‍59)

注4)  「キャリア・プラトーとは,キャリアの高原状態を指し,『現在の職位以上の昇進の可能性が非常に低いこと』という垂直軸での停滞を指すことが多いが,『成長や能力開発の可能性が非常に低いこと』という水平軸での停滞を指すこともある」(坂爪2018: 91)‍8)

注5)  「フレキシビリティ・スティグマとは,労働時間の短さではなく,『短時間勤務などの両立支援策を利用する』という行為そのものによって,仕事に没頭していないとみなされ,キャリアアップにつながらない仕事内容が与えられたり,キャリア形成において自らを引き上げてくれるメンターやスポンサーを見つけることが難しくなるといった不利益を被ったりすることである」(坂爪2018: 91)‍8)

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