人間科学
Online ISSN : 2434-4753
研究論文
女子大学生の隠れ肥満の出現実態と栄養摂取・食物摂取頻度状況
堀内 ゆかり堀内 雅弘
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2022 年 4 巻 p. 33-40

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抄録

本研究では,女子大学生の隠れ肥満の実態とその栄養摂取状況の比較検討について,平均年齢20歳の女子大学生90名を対象に検討した。評価項目は,体脂肪率,体格指数(BMI),および栄養摂取状況であった。その結果,BMIが正常範囲(18.5~25)でありながら,体脂肪率が30%以上の「隠れ肥満」は,19名であり,体脂肪率が25~30%の「隠れ肥満境界域」は,27名であり,両者を合わせると全対象者の51%になった。BMIが正常5,かつ体脂肪率が25%未満の「ふつう」群(33名)と,「隠れ肥満境界域+隠れ肥満」群(46名)の2群について栄養素を比較検討した。「隠れ肥満境界域+隠れ肥満」群は,ビタミンK,食物繊維,豆類,および緑黄色以外の野菜・きのこ類の摂取が有意に少なかった(いずれもp<.05)。以上のことから,「隠れ肥満」を防ぐ食生活として食物繊維を多く含む食品群の摂取が推奨される可能性が示唆された。

Abstract

Health and nutrition intake status of mothers may affect the health conditions of next generation’s children. Therefore, research on health and nutrition measures for young females is an important and urgent theme. This study surveyed the prevalence of masked obesity and nutrition intake status among female university students. We collected data from 90 female university students including information about age, height, body mass, percentage body fat, and nutrition intake status. Based on body mass index (BMI), participants were divided into five groups: (i) skinny (BMI<18.5 and percentage body fat <25%), (ii) normal (18.5<BMI<25 and percentage body fat <25%), (iii) borderline masked obesity (18.5<BMI<25 and 25%< percentage body fat <30%), (iv) masked obesity (18.5<BMI<25 and percentage body fat >30%), and (v) obese (BMI>25). Nutrition intake status variables including energy, major nutrients, inorganic nutrients, vitamins, dietary fiber, beans, mushrooms, and vegetables were evaluated using a questionnaire. We compared nutrition intake status between the normal group (n=33, 37%) and the group comprising borderline masked obesity and masked obesity (n=46, 51%). Compared to normal female university students, students with borderline masked obesity and masked obesity had lower intakes for vitamin K, dietary fiber, beans, mushrooms, and vegetables except green and yellow vegetables (all p<.05). Collectively, these results suggest that foods including high dietary fiber intake may be associated with prevention of masked obesity in young females.

1. 緒言

過体重あるいは肥満は,2型糖尿病‍1)2),高血圧症‍3)4),脂質異常‍5)6)などの疾患と関連があることはこれまでに数多く報告されてきている。一方,不必要な減量によりやせすぎていることも,除脂肪体重の減少を誘発したり‍7),骨量の低下とも関連があることが報告されている‍8)。2018年の厚生労働省による国民健康・栄養調査報告によると,体格指数(Body Mass Index; BMI)の肥満者率(BMI>25)は男女とも加齢とともに増加する。一方,若年者(20–29歳)については,BMIが「ふつう」(BMI; 18.5–25.0)の割合は男女とも約70%であるが,女性の肥満率は男性のそれの半分(女性10.7%,男性17.9%)であり,反対に「やせ」(BMI<18.5)は男性の約2倍(女性19.8%,男性11.5%)と対照的な結果になっている‍9)

先行研究によれば,20歳前後の日本人女性の約40%が外国人や日本人モデルを理想の体型と考えており,極端な痩身志向が健康上問題であることが指摘されている‍10)。現状では20歳代女性の約5人に1人がBMI 18.5未満の「やせ(低体重)」である‍9)。また,BMIが「ふつう」以下であっても,体脂肪率が高い「隠れ肥満」に関する問題がこれまでに数多く報告されてきている‍11)~19)。肥満は「脂肪組織が過度に蓄積した状態」を指し,BMIは身長と体重から算出されるため,本来体型のみを示す指標であるにもかかわらず,肥満の一般的な判定に利用されてきている。しかしながら,BMIや過体重だけでの判定では,肥満を見逃すことも報告されいる‍20)。したがって,肥満や隠れ肥満の実態を把握するためには,BMIと体脂肪率双方の面からの検討が必要である。また,そもそも肥満は,継続的に摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ったときに見られる。消費エネルギー量を正確に測定するには,メタボリックチャンバーや3軸加速度計などが用いられるが,前者は非常に高価な機器であり導入が難しく,後者は体動以外の消費エネルギー測定が困難であったり,いずれの機器も大規模調査には難点があると思われる。また,女性の健康や栄養状態は,次世代の子どもたちの健康に影響を及ぼす可能性があるため,若年女性を対象とした健康・栄養対策に関する研究は大変重要であり,かつ急務であることが提唱されている‍14)

そこで本研究では女子大学生を対象に,肥満および隠れ肥満の実態について,摂取エネルギーの指標として摂取栄養素の関連から検討をした。

2. 方法

(1) 対象者

対象者は,E市内の大学に通学する女性90名であった。対象者の平均年齢は20.1(SD=1.2)歳,平均身長は159.3(SD=4.9)cm,平均体重は56.5(SD=8.4)kgであった。本研究の実施に際しては,当該大学の授業内容の一環として行われ,対象学生には十分な内容,および目的説明を行った。個人情報保護の観点から自身の体格指標,および栄養摂取状況を知られたくない学生は任意での不参加を認めたが,不参加学生はなく,全員から十分なインフォームドコンセントを得た。

(2) 測定項目および調査

身長,体重,および体脂肪率の測定には,インピーダンス法を用いて行った(TBF-401, TANITA)。測定前1時間は,水分摂取も制限した。測定は女性スタッフ立ち合いの下,各対象者について個別に別室で行い,服装はTシャツにハーフパンツに統一した。本方法は二重X線標識法で実測された体脂肪率との間に非常に高い相関関係(r=0.92–0.95)を示しており,その信頼度と妥当性は先行研究で確認されている‍21)~23)。データの安定性のために3回測定し,その平均値を採用した。栄養素摂取状況は,栄養計算ソフトエクセル栄養君,およびエクセル栄養君アドインソフト食物摂取頻度調査(FFQg: Food Frequency questionnaire Based on Food Groups)を用いて行い,以下の指標を得た‍24)~26)。すなわち,1)エネルギー摂取量(kcal),2)タンパク質(g),3)脂質(g),4)炭水化物(g),5)ナトリウム(mg),6)カリウム(mg),7)カルシウム(mg),8)マグネシウム(mg),9)リン(mg),10)レチノール当量(μg),11)ビタミンD(μg),12)ビタミンE(mg),13)ビタミンK(μg),14)ビタミンB1(mg),15)ビタミンB2(mg),16)ビタミンB6(mg),17)ビタミンB12(μg),18)ビタミンC(g),19)食物繊維総量(g),20)たんぱく質エネルギー比(%),21)脂質エネルギー比(%),22)炭水化物エネルギー比(%),23)豆類(g),24)緑黄色野菜(g),および25)緑黄色以外の野菜・きのこ類(g)であった。

(3) データ解析および体格区分

得られた身長と体重のデータを用いて,体重(kg)/身長(m)‍2の式からBMIを算出した。やせ~肥満の分類は女子大学生を対象に行われた先行研究‍14)16)18)26)を参考に,次のようにした。1)BMIが18.5以下,かつ体脂肪率25%未満を「やせ」,2)BMIが18.5~25未満,かつ体脂肪率25%未満を「ふつう」,3)BMIが18.5~25未満,かつ体脂肪率25~30%未満を「隠れ肥満境界域」,4)BMIが18.5~25未満,かつ体脂肪率30%以上を「隠れ肥満」,および5)BMIが25以上を「肥満」とした。

(4) 統計解析

全ての値は平均値±標準偏差で示し,統計にはフリーソフトR(Ver. 3.6.1)を用いた。「ふつう」群と「隠れ肥満境界域+隠れ肥満(以下,隠れ肥満境界域以上)」群の両群の栄養摂取の差の検定には,対応のないt検定を用いた。全対象者を一括した場合の,BMIと体脂肪率の関連については,ピアソンの相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。

3. 結果

1にBMIおよび体脂肪率から区分された各領域の人数,割合,平均年齢,身長,体重,BMI,および体脂肪率を示した。さらに,各領域の散布を図1に示した。その結果,「隠れ肥満境界域」群に占める割合は30.0%であり,「隠れ肥満」群のそれは21.1%であり,両者を合わせると50%以上が,「隠れ肥満境界域以上」群に該当した(表1,および図1)。

表1  体格指数(Body Mass Index; BMI)と体脂肪率(%fat)から決定された全対象者の区分
BMI区分 %fat区分 人数,
n(%)
年齢(SD),
身長(SD),
cm
体重(SD),
kg
BMI(SD)
kg/m‍2
体脂肪率
(SD),%
やせ <18.5 <25 3(3.3) 21.3(2.1) 155.7(2.5) 43.5(0.6) 18.0(0.4) 20.5(1.0)
ふつう 18.5~25 <25 33(36.7) 20.2(1.1) 159.5(4.9) 52.0(4.3) 20.4(1.0) 21.8(2.5)
隠れ肥満境界域 18.5~25 25~30 27(30.0) 20.0(1.2) 160.3(5.3) 56.9(4.3) 22.1(1.0) 27.3(1.4)
隠れ肥満 18.5~25 30> 19(21.1) 19.9(1.2) 157.8(5.0) 58.8(5.3) 23.6(1.0) 32.2(2.1)
肥満 25> 8(8.9) 19.6(0.7) 159.8(4.8) 72.0(15.3) 28.0(4.1) 37.6(6.0)

SD,standard deviation;標準偏差。

図1 全対象者を一括した場合の,BMIと体脂肪率の関係,および肥満区分。領域A)はBMIが18.5未満で体脂肪率が25%未満の「やせ」,領域B)はBMIが18.5~24.9で体脂肪率が25%未満の「ふつう」,領域C)はBMIが18.5~24.9で体脂肪率が25~29.9%の「隠れ肥満境界域」,領域D)はBMIが18.5~24.9で体脂肪率が30%以上の「隠れ肥満」,および領域EはBMIが25以上で体脂肪率が30%以上の「肥満」をそれぞれ示す。

1に示すように,BMIが18.5未満で体脂肪率が25%以上に該当する「隠れ肥満境界域以上」の人はいなかった。同様に日本肥満学会ではBMIが25以上だと肥満と判定されるが,BMIが25以上であるにもかかわらず,体脂肪率が肥満未満である,いわば体脂肪も除脂肪組織(例えば,骨格筋)も多い人はいなかった。また,BMIと体脂肪率の間には有意な正の相関関係が認められた。

BMIが18.5~25未満,かつ体脂肪率が25%未満の「ふつう」群とBMIが18.5~25未満であるが,体脂肪率が25%以上の「隠れ肥満境界域以上」群の各種栄養摂取状況の比較を表2に示した。その結果,総エネルギー摂取量と3大栄養素(タンパク質,脂質,および炭水化物)の摂取量は両群の間に有意な差は認められなかった。ミネラル分については,カリウム,およびマグネシウムで「ふつう」群が「隠れ肥満境界域以上」群より摂取量が多く,有意傾向が認められた(いずれもp<.10)。ビタミンについては,ビタミンKの摂取量のみ「ふつう」群が「隠れ肥満境界域以上」群より有意に多かった(p<.05)。「隠れ肥満境界域以上」群は,食物繊維,豆類と緑黄色野菜以外の野菜・きのこ類の摂取が有意に少なかった(いずれもp<.05)。

表2  「ふつう」および「隠れ肥満境界域以上」の二群における各種栄養摂取状況の比較
ふつう
(n=33)
隠れ肥満境界域+隠れ肥満
(n=46)
t値 p値
エネルギー摂取量(kcal) 1964(702) 1855(486) 0.82 0.42
タンパク質(g) 65(30) 59(17) 1.24 0.22
脂質(g) 70(31) 64(23) 1.01 0.32
炭水化物(g) 260(85) 253(63) 0.42 0.68
ナトリウム(mg) 3879(1827) 3592(1188) 0.85 0.40
カリウム(mg) 2330(1083) 1984(666) 1.76 0.08
カルシウム(mg) 630(375) 526(238) 1.52 0.13
マグネシウム(mg) 251(122) 211(62) 1.88 0.06
リン(mg) 1030(478) 903(275) 1.49 0.14
レチノール当量(μg) 769(447) 658(298) 1.33 0.19
ビタミンD(μg) 5.93(5.11) 4.65(2.55) 1.48 0.14
ビタミンE(mg) 8.19(3.59) 7.23(2.38) 1.43 0.16
ビタミンK(μg) 187.9(127.6) 143.3(59.1) 2.08 *0.04
ビタミンB1(mg) 0.93(0.42) 0.85(0.28) 1.03 0.31
ビタミンB2(mg) 1.19(0.63) 1.06(0.38) 1.15 0.26
ビタミンB6(mg) 0.99(0.45) 0.85(0.29) 1.65 0.10
ビタミンB12(μg) 5.42(4.64) 4.33(2.49) 1.35 0.18
ビタミンC(mg) 71.5(37.9) 62.0(40.8) 1.06 0.29
食物繊維総量(g) 11.8(5.4) 9.6(3.1) 2.30 *0.02
タンパク質E比(%) 13.1(2.4) 12.7(1.7) 0.94 0.35
脂質E比(%) 31.8(4.5) 30.3(4.5) 1.47 0.14
炭水化物E比(%) 55.1(5.8) 57.1(5.4) −1.55 0.12
豆類(g) 56.5(61.2) 33.4(30.3) 2.21 *0.03
緑黄色野菜(g) 60.9(46.1) 49.4(33.0) 1.29 0.20
野菜他・きのこ類(g) 97.1(80.4) 66.0(36.3) 2.31 *0.02

値は平均値(標準偏差)を示す。両群の栄養素の比較には対応のないt検定を用いた。E比は総エネルギー摂取量に対する各栄養素のエネルギー比を示す。*はp<.05で両群の有意差を示し,‍は .05<p<.10で両群の有意傾向を示す。

4. 考察

本研究では,女子大学生90名の隠れ肥満の実態を把握するとともに,彼女らの食生活の実態を調査し,「ふつう」群と「隠れ肥満境界域以上」群の栄養摂取状況の違いを比較検討した。その結果,1)「隠れ肥満境界域」に占める割合は30.0%であり,「隠れ肥満」のそれは21.1%であった,2)「隠れ肥満境界域以上」群は,「ふつう」群より,ビタミンK,食物繊維,豆類,および緑黄色野菜以外の野菜・きのこ類の摂取が有意に少なかった。

「隠れ肥満」の定量的な側面,すなわちBMIと体脂肪率との間に明確な定義は存在しない。本研究では,先行研究の区分に基づき,BMIが正常範囲の18.5–25.0未満でありながら,体脂肪率が30%以上を「隠れ肥満」群,25–30%未満を「隠れ肥満境界域」群,および体脂肪率25%未満を「ふつう」群とした‍14)16)18)26)。本研究で認められた「隠れ肥満境界域」群は全体の30%で,先行研究の報告(34~39%)‍14)16)18)と大きな差は認められなかった。なお,新堀ら(2013)‍26)は,体脂肪率30%未満を一律標準群として区分していたため,「隠れ肥満境界域」群は定義されていなかった。一方,「隠れ肥満」のそれは本研究では21%を占めたのに対し,先行研究では6%~22%の間に分散しており,本研究の割合は高かったといえる。「隠れ肥満境界域」と「隠れ肥満」を合わせた割合は,本研究では全対象者の51%を占めたのに対し,先行研究のそれらは40~53%とおおむね一致する結果となった。先行研究の調査時期(論文公表年2002~2013年),母集団が属する地域性(東京,岡山,兵庫,福岡),および人数(41,103,94,および385名)が明確に異なること,および本研究結果も鑑みると,2000年代前半から現在に至るまで,女子大学生の「隠れ肥満」の発症リスクは約半数にのぼると考えられた。厚生労働省(2018)‍9)の調査では,男性と比較して,女性の「肥満率」は低く,「やせ」は高いと対照的な結果になっているが,この調査結果だけでは,隠れ肥満を見逃してしまう危険性があることに今後留意しなければならないと考える。

本研究では,「隠れ肥満境界域以上」群の栄養摂取状況が,「ふつう」群とどのように違うのか検討を試みた。その結果,いくつかの栄養素で両群の間に有意な差が認められた。「隠れ肥満境界域以上」群のビタミンK摂取量は「ふつう」群より有意に少なかった。ビタミンKは正常な血液凝固の維持に必要なビタミンとして発見された脂溶性ビタミンの1つである。一般に,ビタミンKの効能として骨粗鬆症‍27)28)や動脈硬化予防‍29)30)に有効であることが報告されてきているので,肥満と直接関連する栄養素ではないといえる。しかしながら,最近の研究では,ビタミンK2はアディポネクチンを増やし内臓脂肪を低減させる可能性があることも報告されている‍31)。また,ビタミンKの投与実験では閉経後女性の骨密度低下を抑制できること‍32)33)から,肥満の有無にかかわらず女性にとって重要な栄養素であると考えられる。

本研究では,栄養計算ソフトエクセル栄養君,およびエクセル栄養君アドインソフト食物摂取頻度調査を用いた‍24)~26)。このソフトは栄養素以外にも特定の食物摂取頻度も調査できることから,次に「ふつう」群と「隠れ肥満境界域以上」群との間に有意な差が認められた食物摂取の頻度,および関連する栄養素について考察する。

「隠れ肥満境界域以上」群の摂取が少なかった栄養素として食物繊維,食物として豆類,緑黄色以外の野菜・きのこ類が抽出された。食物繊維は,従来消化されず役に立たないものとされてきており,人の消化酵素によって消化されにくい食物に含まれている成分の総称である。これまで女子大学生を対象にした調査では,食物繊維の多い人はBMIが低いことや‍34),内臓脂肪量の指標である腹囲が小さいこと‍35)が報告されている。また,食物繊維の摂取は,食後血糖値の急激な上昇の抑制作用があることも報告されている‍36)~38)。過剰な高血糖は,やはりインスリン分泌遅延から,糖質が脂肪組織としての蓄積増加につながる可能性がある。

日本人が日常摂取する豆類には,大豆を始めとして,あずき,インゲンマメ,エンドウマメ,ヒヨコマメ,ソラマメ,落花生など多様である。これまで豆類食品の摂取がかくれ肥満を防ぐという明確なエビデンスは存在しないが,その栄養素の効能の有効性はいくつか報告されてきている。例えば,大豆イソフラボンの摂取は血中脂質である総コレステロールとLDL(Low Density Lipoprotein;悪玉)コレステロールを減少させたり‍39),肥満女性の糖尿病発症リスクを軽減させることが報告されている‍40)。また,そもそもイソフラボンは,女性ホルモン(エストロゲン)によく似た構造をしている。そのため女性ホルモン様作用があることから,更年期障害‍41)や骨粗鬆の予防‍42)に効果的であることが報告されている。以上の結果から,豆類は,女性の健康維持にとって積極的に推奨される栄養素であるといえるかもしれない。

「隠れ肥満境界域以上」群は,「ふつう」と比較して緑黄色以外のその他野菜・きのこ類の摂取が有意に少なかった。その他の野菜の栄養素を明らかにすることはできないため,以降「きのこ類」について考察する。先行研究においてはキノコ成分の一つであるキノコキトサンの摂取により,過剰な体脂肪を減少させる効果があること‍43)や,体脂肪が標準より高い健康な女子学生では,体脂肪が標準の女子学生よりも体脂肪の減少が大きいこと‍44)が報告されてきている。また,BMI25以上の過体重の人の過剰な体脂肪量を減少させる効果がある一方で,骨格筋などの組織量には大きな影響を与えることが報告されている‍45)。このメカニズムとして,キノコキトサンの有効成分が脂肪細胞上のβ-受容体を刺激することで,中性脂肪はモノグリセリドと遊離脂肪酸へ分解され,遊離脂肪酸は血中へ出て,肝臓や褐色脂肪細胞へ運ばれ,燃焼されることが想定されている‍46)

本研究の問題の一つに消費エネルギーの詳細な調査がされていないことが挙げられる。一般に,身体活動量の増加は体重,体脂肪量,特に内臓脂肪量の減少をもたらすことが報告されている‍47)。本研究では「ふつう」群と「隠れ肥満境界域以上」群との間にどのくらいエネルギー消費量に差があったかは不明なままである。特に,授業以外の時間での,課外活動やアルバイトなど,各学生がどのような日常生活を行い,エネルギーを消費していたかは,不明である。換言すれば,被験者間エネルギー消費の統制を行うことができなかった。以上の問題を踏まえ,エネルギー消費と摂取の詳細な調査は,今後の課題といえる。同様に,本研究では食行動などの調査も行っていないため,これらの要因も今後の検討課題といえる。例えば,一般的に早食いや満腹になるまで食べる食習慣は,肥満になりやすい原因のひとつといわれ,これらを改善することは肥満予防の方法としてあげられている‍48)49)。特に,若年女性の隠れ肥満者を対象にした研究では,やせ願望からくるダイエット行動‍15)19)やEAT-26により評価された食行動異常が「隠れ肥満」と関連していること‍15)16)が報告されている。EAT-26とは,1982年に確立された摂食態度の歪みを評価する尺度である‍50)。その妥当性・信頼性は日本語版においても確立されており,摂食行動の異常や,健常者においては食行動異常度の評価に用いることができる‍51)52)。対象者数が少なく限定された1大学の調査協力者という点での選択バイアスにも留意する必要がある。また,横断研究であるため,隠れ肥満と食生活の因果関係は示すことができない。

一方,本研究は大学授業の一環として,実施されたことから,将来展望も見越すことができるかもしれない。実際,いくつかの大学では学生の栄養調査と食教育の試みがされている‍53)54)。したがって,本研究結果も単に学生の栄養素摂取,および食物摂取頻度状況の調査にとどめることなく,栄養教育と健康教育の融合により,学生の肥満予防に役立てることが期待される。

5. 結論

本研究結果から,女子大学生の約50%が「隠れ肥満境界域」または「隠れ肥満」であった。栄養素摂取状況において,女子大学生の体脂肪率と身体活動によるエネルギー消費量において,「隠れ肥満境界域以上」群は,「ふつう」群と比較して,ビタミンK,食物繊維,豆類,および緑黄色以外の野菜・きのこ類の摂取量が有意に少なかった。今後,対象の選択・拡大,消費エネルギーや食行動などの詳細な調査を行うことで,若年女性における隠れ肥満のより詳細な実態や,予防策,および具体的な支援策につながる検討を重ねる必要がある。

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