Human Sciences
Online ISSN : 2434-4753
Original Article
Annual changes of health status and lifestyles in university students examined in regular health checkup and lifestyle survey
Third report: Physical exercise and breakfast habits
Yaemi HamadaYoshiko EdaAkane KusubayashiRie TsujiHiromi Muratani
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2025 Volume 7 Pages 45-53

Details
抄録

九州産業大学の1年生,4年生について,2003年から2024年までの運動と朝食摂取の習慣について分析した。初期には運動サークルに限定するような質問をしたり,運動の継続期間や持続時間についての記載が不十分だったりした。現行の調査票になった2018年以降では,4年生の男性以外では運動習慣を持つ割合は不変である。運動が嫌いな学生と嫌いではないが運動とは無縁である学生は,いずれも男性よりも女性の方が,また1年生よりも4年生の方が多かった。朝食摂取の習慣については,2003年からの全期間を通じて同じ質問をし,男女ともに,あるいは1・4年生ともに,一定の経年変化を検出できなかったが,男性よりも女性の方が朝食摂取の習慣を持つ割合が高かった。在学中に朝食摂取の習慣を失うのは,男女ともに観察された。最後に多重ロジスティック回帰分析を行い,運動習慣と朝食摂取の習慣が性や学年によらず重複することを示した。

Abstract

In freshmen and seniors in Kyushu Sangyo University, we analyzed ratios of exercise habit and habit of having breakfast. As for the exercise habit, in early times, we had a question focused on sports club activities, and description about the continuance and duration of physical exercise were insufficient. Since 2018 when present questionnaire was used, the ratio of those having exercise habit is unchanged except for the male seniors. Students who hate physical exercise and students who have no connection to but do not hate physical exercise were both popular in women than in men, and in senior than in freshmen. As for the habit of having breakfast, we gave same question from 2003 to 2024. Both in men and women, or both in freshmen and seniors, we could not find a constant annual change in the habit of having breakfast. During the enrollment in university, the ratio of habit of having breakfast dramatically declined in both men and women.

1. 緒言

これまで,九州産業大学の学部生(九産大生)の分析で身体的あるいは精神的な健康度の自己評価が低い学生に運動習慣がない者が多いこと1)を報告し,運動習慣と朝食摂取が良好な健康状態に関連する可能性1)2)を指摘して来た。自己評価した健康度が低いと,除籍・退学や進路未定のままでの卒業が増える可能性も指摘した3)。さらに,除籍・退学や進路未定のままでの卒業に結びついている生活習慣は,運動習慣を持たないこと,朝食摂取の習慣がないこと,喫煙者であることであった3)。これらに基づいて,健康教育や支援の在り方を考えてきたが,この22年の間に学生の生活習慣や健康度の自己評価がどのように変わったのかについては,十分な検討がなされていなかった。たとえば,2018年から2024年の調査生成期を基にした多重ロジスティック回帰分析では,喫煙習慣は学生の精神的健康度とは無関係であった4)。学生の生活習慣やその意味は時代によって変わり得るのかも知れない。また,上に触れた多重ロジスティック回帰分析では,運動習慣や朝食摂取の習慣は,最近でも健康度の自己評価を高める方向に作用していたが4),これらの頻度の経年変化について十分な検討をしたとは言い難かった。

本研究では,2003年から2024年までの九産大生について,定期健康診断と同時に実施している生活習慣調査の成績を分析し,運動習慣や朝食摂取の習慣について,経年的な変動を明らかにすることを試みた。特に,2011年からは,ずっと運動していない学生について,運動が嫌いな学生と嫌いではないが運動とは無縁であった学生に分けて尋ねているので,その結果も報告する。今後の健康支援や教育の方法を考える基礎資料となることを期待する。

2. 方法

(1) 対象

2003年から2024年の間に九州産業大学に入学し,年度初めに定期健康診断を受け,同時に生活習慣調査に回答した学部生で,データの揃っている1年生と4年生を対象にした。男83,422人,女26,971人,1年生57,183人,4年生53,210人,計110,393人である。その詳細については本シリーズの第一報に述べた4)

「回答を集計して統計的な解析を行い,得られた結果を学会や学術雑誌に発表することがありますが,個人の名前やその回答の内容が外部に漏れることは,決してありません」という文言は2003年から調査票に表示している。2018年以降は「それでもなお,この調査書に記載されたあなたの情報を,研究の目的に使用することに関して同意できない場合,学医あるいは他の保健室のスタッフにお知らせください。申し出るのに期限は設けておりません」という文言も付け加えた。これまでに研究目的での使用を断った学生はいない。また,データが流出したこともない。

(2) 経年変化

各調査年毎に性,学年別に運動習慣,朝食摂取の習慣についてのクロス集計表を作成した。さらに,毎年の対象者数が異なるので,パーセント表示に変換して経年変化を調べた。

運動習慣については,調査者の問題意識を反映して質問が変わっている。2007年までは学内外のサークルでの運動習慣を尋ね,2008年からは1ヵ月以上行っている現在の運動習慣を尋ねた。2011年からは,ずっと運動していない学生を,運動が嫌いな学生と嫌いではないが運動とは無縁であった学生に分けた。運動の継続期間は,2011年から2017年までは1年以上と1年未満だが1ヵ月以上,1ヵ月未満に分け,2018年から2024年までは,30分以上の持続を運動の条件とし5),継続は1ヵ月以上と1ヵ月未満に分け,週に何回の運動機会があるかも尋ねている。

朝食摂取の習慣については,2003年から同じ質問を続けている。すなわち,ほぼ毎日食べる,週4~5日食べる,週2~3日食べる,殆ど食べないの4つから選んでもらった。たとえば日曜日は昼まで寝ているので食べないが,あとは食べるという学生は,殆ど食べるに入る。逆に,早く起きた時は朝食を食べるが,そのような日は週に1日あるかどうかという学生は,殆ど食べないに入る。

(3) 運動習慣と朝食摂取の習慣との関連

これについても,クロス集計表を作成して分析した。人間科学部の1年生に限った分析であるが2),この両者が重複している可能性が示唆されていたからである。この分析には,現在の調査票(質問紙)を使い出した2018年以降のデータを用いた。また,自宅から通っているかアパートや寮で一人住まいをして通学しているかで,健康度の自己評価が異なる可能性が示された4)。そこで,2018年以降の学生について,30分以上の運動を続けている割合や週4日以上朝食を摂取している割合に性と学年がそれぞれ有意の影響を及ぼすか,ここに述べた運動習慣や朝食摂取の習慣は重複しているか,それは性や学年の影響とは独立しているか,居住形態は運動習慣や朝食摂取の習慣に影響しているかについて,多重ロジスティック回帰分析により調べた。2020年には学生の生活習慣にCOVID-19が大きな影響を及ぼした可能性がある。そこで,この多重ロジスティック回帰分析の説明変数としては,調査年は採用しなかった。

(4) データの入手と倫理的配慮

定期健康診断や生活習慣調査で得られたデータは,全て,エクセルファイルとして,健診機関から本研究の共同研究者である学医が提供を受けた。実際の統計解析には市販の統計ソフト「エクセル統計 BellCurve® for Excel」を用いた。p値0.05未満を統計学的な有意水準とした。

本論文では定期健康診断の成績は用いていないが,研究計画の全体で定期健康診断の成績と生活習慣調査の成績とを学籍番号を手掛かりにして結合する必要があり,匿名化は行っていない。その点も含めて本研究の実施については「大学生の定期健康診断と日常生活習慣調査の分析」として九州産業大学の倫理委員会の審査を受け,承認された(2024-0006号)。

3. 結果

(1) 運動習慣の経年変化

2003年から2024年までの変化を通して見ると,運動習慣があると回答した学生が増えている(図1)。しかし,分析した4つの群を通じて,2007年と2008年の間,2017年と2018年の間にステップアップが観察され,先に述べた質問の変更が結果に影響した可能性を否定できない。そこで,現在の調査票になった2018年以降のデータについて,運動習慣がある学生の割合に経年的な増加が見られるかを調べた。4年生の男性(49.5±3.2%)のみp<0.05で増加していたが,1年生の男女(それぞれ40.6±3.5%,27.3±4.6%),4年生の女性(35.0±5.0%)では経年的な増加は認められなかった。

図1

九産大生の運動習慣

2011年からは,ずっと運動していない学生を,運動は嫌いという回答と嫌いではないが運動とは無縁だという回答に分けた。その割合を示したのが図2である。男性よりも女性の方が,また,1年生よりも4年生の方が運動は嫌いという学生も,嫌いではないが運動とは無縁だという学生も多かった。

図2

運動が嫌いな学生と嫌いではないが運動とは無縁であった学生

このデータを見ると,4年生の女性を除き,他の群では運動は嫌いという回答も,嫌いではないが運動とは無縁だという回答も減少しているように見える。しかし,先に述べた様に,2018年以降では1回の運動の持続時間を30分と規定しているが,2017年まではその規定がなく,2017年と2018年の間で運動習慣があると回答した学生の割合がステップアップしているので,ずっと運動していない学生の割合も質問の仕方の影響を受けている可能性がある。そこで,2018年以降のデータに限って運動は嫌いという回答と嫌いではないが運動とは無縁だという回答の割合の経年変化を検討したところ,検討した4つの群で,いずれの割合も有意の変動を示していなかった。

(2) 朝食摂取の習慣の経年変化

図3に示したように,4年生の男性では朝食を食べる割合が僅かに増えていたが(r=0.643, p<0.01),1年生の男性や1・4年生の女性では一定の経年変化を示さなかった。2003年から2024年の全期間を通じて,1年生に比べ4年生では朝食摂取の習慣が低値であり,在学中に朝食摂取の習慣を失っていることが明らかである。すなわち,朝食をほぼ毎日食べる学生は1年生では男女とも60%を超え,週4~5日食べる学生も含めると男性で80%前後,女性で80%超であった。これが4年生になると,朝食を食べる割合が僅かに増えて来た男性でも,最近5年間の値はそれぞれ40%弱,50%超,女性では40%前後,60%弱であった。

図3

九産大生の朝食摂取の習慣

(3) 運動習慣と朝食摂取の習慣の重複

表1に示すように,性,年齢を問わずに,運動習慣があれば朝食をほぼ毎日摂取する割合が高かった。表1を見ると,男性よりも女性の方が,4年生よりも1年生の方が朝食摂取の習慣が保たれているが,30分以上の運動をしている割合は女性よりも男性の方で,1年生よりも4年生の方で高かった。これらがそれぞれ独立して認められるかを調べたのが多重ロジスティック回帰分析である。

表1

運動習慣の有無と朝食摂取の有無の関連.a):男・女,b):1・4年生.

a)
男性 朝食摂取の習慣
ほぼ毎日 週4~5日 週2~3日 殆ど食べず 合 計
30分以上の運動 期間や頻度を問わず,している 5,859(56.7) 1,420(13.7) 1,326(12.8) 1,728(16.7) 10,333(100.0)
以前はしていたが,今はしていない 4,792(51.7) 1,356(14.6) 1,276(13.8) 1,853(20.0) 9,277(100.0)
運動・スポーツは嫌い 573(44.0) 192(14.8) 179(13.8) 357(27.4) 1,301(100.0)
嫌いではないが無縁 940(41.3) 298(13.1) 337(14.8) 699(30.7) 2,274(100.0)
合 計 12,164(52.5) 3,266(14.1) 3,118(13.4) 4,637(20.0) 23,185(100.0)
女性 朝食摂取の習慣
ほぼ毎日 週4~5日 週2~3日 殆ど食べず 合 計
30分以上の運動 期間や頻度を問わず,している 1,695(58.8) 394(13.7) 381(13.2) 415(14.4) 2,885(100.0)
以前はしていたが,今はしていない 2,011(60.3) 497(14.9) 383(11.5) 445(13.3) 3,336(100.0)
運動・スポーツは嫌い 808(50.7) 256(16.1) 241(15.1) 289(18.1) 1,594(100.0)
嫌いではないが無縁 928(51.8) 264(14.7) 284(15.8) 317(17.7) 1,793(100.0)
合 計 5,442(56.6) 1,411(14.7) 1,289(13.4) 1,466(15.3) 9,608(100.0)
b)
1年生 朝食摂取の習慣
ほぼ毎日 週4~5日 週2~3日 殆ど食べず 合 計
30分以上の運動 期間や頻度を問わず,している 4,432(72.0) 726(11.8) 514(8.3) 486(7.9) 6,158(100.0)
以前はしていたが,今はしていない 5,171(67.1) 1,062(13.8) 688(8.9) 784(10.2) 7,705(100.0)
運動・スポーツは嫌い 870(61.9) 229(16.3) 139(9.9) 168(11.9) 1,406(100.0)
嫌いではないが無縁 1,148(63.5) 245(13.6) 183(10.1) 232(12.8) 1,808(100.0)
合 計 11,621(68.1) 2,262(13.2) 1,524(8.9) 1,670(9.8) 17,077(100.0)
4年生 朝食摂取の習慣
ほぼ毎日 週4~5日 週2~3日 殆ど食べず 合 計
30分以上の運動 期間や頻度を問わず,している 3,121(44.2) 1,088(15.4) 1,193(16.9) 1,657(23.5) 7,059(100.0)
以前はしていたが,今はしていない 1,632(33.3) 790(16.1) 970(19.8) 1,513(30.8) 4,905(100.0)
運動・スポーツは嫌い 511(34.3) 219(14.7) 281(18.9) 478(32.1) 1,489(100.0)
嫌いではないが無縁 720(31.9) 317(14.0) 438(19.4) 784(34.7) 2,259(100.0)
合 計 5,984(38.1) 2,414(15.4) 2,882(18.3) 4,432(28.2) 15,712(100.0)

                                                   p<0.001

(4) 多重ロジスティック回帰分析

すでに述べたようにクロス集計表分析で運動習慣と朝食摂取の習慣が重複する可能性が示唆されたが,性別や学年による差もあった。対象者にはこれらが同時に作用していたので,それぞれの効果が独立したものであるかを多重ロジスティック回帰分析によって調べたのが表2である。運動習慣についても朝食摂取の習慣についても,男女の差や1年生と4年生の差は独立して認められた。さらに,30分以上の運動を続けている学生では週4日以上朝食を摂取している割合が有意に高く,逆に週4日以上朝食を摂取していると30分以上の運動を続けている割合が有意に高かった。それは性や学年の影響を考慮に入れても認められたので,運動習慣と朝食摂取の習慣は,性や学年によらず重複することが明らかである。一方,居住形態は,自宅や親戚宅に住んでいる学生の方が週4日以上朝食を摂取する頻度が有意に高かったが,運動習慣とは有意の関連が観察されなかった。

表2

運動習慣(左)と朝食摂取の習慣(右)を目的変数とし,2018年から2024年までの成績を用いた多重ロジスティック回帰分析

目的変数 運動習慣 32,729人 
0 期間や頻度は問わず,現在,している 
1 理由の如何を問わず,現在,していない
説明変数 オッズ比 p値
性別
1 男
2 女
1.900
(1.805–2.000)
p<0.001
学年
1 1年生
2 4年生
0.854
(0.841–0.867)
p<0.001
朝食摂取
0 週に4~5日,あるいは
  ほぼ毎日摂取する
1 週に2~3日,あるいは
  殆ど欠食である
1.513
(1.437–1.529)
p<0.001
居住形態
1 親/親戚宅
2 アパート・寮
1.010
(0.964–1.059)
p=0.678
目的変数 朝食摂取の習慣 32,729人 
0 週4~5日, あるいはほぼ毎日摂取する 
1 週2~3日摂取する,あるいは殆ど欠食
説明変数 オッズ比 p値
性別
1 男
2 女
0.781
(0.739–0.825)
p<0.001
学年
1 1年生
2 4年生
1.580
(1.553–1.607)
p<0.001
30分以上の運動
0 現在,している
1 現在,していない
1.515
(1.439–1.594)
p<0.001
居住形態
1 親/親戚宅
2 アパート・寮
1.501
(1.427–1.578)
p<0.001

(  )内の値は95%信頼限界

4. 考察

(1) 運動習慣の経年変化

2003年から2024年まで運動習慣に関する質問が3回変化し,それに伴い運動習慣を持つ学生の割合が変わっていた。すなわち,2007年までは運動サークルに焦点を当てたので,個人で運動を続ける人が漏れた可能性がある。2008年からは運動の場がサークルであるか否かは問わず,運動の継続期間を1ヵ月以上としたが,運動を始めて1ヵ月にならない学生をカウントするのは2011年からである。ずっと運動していない学生についても,2011年から運動は嫌いという学生と嫌いではないが運動とは無縁の学生に分けた。この両者はスポーツ科学演習の効果が異なることを報告しており6),学生の志向を知ることは必要であろう。2018年からは1回の運動の持続時間を決めた方が良いと考え,30分以上とした5)。なお,生活の中で身体を動かす時間も含めると,推奨されているのは60分以上だが5),ここでは運動とした。

これらの質問の仕方と呼応するように,運動習慣を持つ学生の割合は,2007年と2008年の間,2017年と2018年の間でステップアップしていた(図1)。しかし,現在の調査票になった2018年以降では,4年生の男性でのみ,運動継続の期間を問わず,質問に回答した時点で運動習慣を持つ学生の割合が増加していたが(p<0.05),1年生の男女,4年生の女性では経年的な増加は認められなかった。従って,運動習慣を持つ学生が明らかに増加しているとは言い難いが,運動習慣は学生の健康度を改善する4)。運動の奨励は今後とも続けるのが良い。どのように奨めるかについては,人間科学部の1年生の成績2)が参考になる。すなわち,人間科学部の445人中,個人で運動を続けている学生が141人(31.7%)もいた2)。今後は,サークル活動の奨励とともに個人で運動できる場を提供するのが良いと思う。

なお,女性では1・4年生ともに2020年に運動している学生の数が増え,運動していないと答えた学生が減っていた(図1)。男性では逆に運動していない学生が若干ではあるが,増えていた。ただしその変化は,女性ほど明らかでなかった(図1)。これは,運動が嫌いだと答えた学生についても,嫌いではないが運動とは無縁であると答えた学生についても同様であった(図2)。2020年には 女性の習慣的喫煙者や習慣的飲酒者の割合も高かった7)。この年の定期健康診断の時期はCOVID-19のパンデミックの初期にあたり,この疾患のリスクが具体的に掴めないまま生活の制限が広く行われていた時期である。学生の生活習慣がCOVID-19のパンデミック―特にその初期―に影響を受けた可能性があるが,その方向は運動習慣に関しては男性と女性で逆であった。この男女差をもたらした要因は明らかにできなかった。

我々はCOVID-19の影響について九産大の学部生を対象に詳しく分析したが8),男性と女性で異なる意識を持っていたかについては明らかでなかった。たとえば,男性では対人接触を減らそうという意識が強く働き,女性では定期的な運動を続けて体調を整えようという意識が強かったのであれば,運動習慣に関して男女で逆向きの反応を示したことが説明できると思われたが,そのようなデータはない。

(2) 朝食摂取の習慣の経年変化

これは,2003年から2024年まで同じ質問であり,4年生の男性ではこの22年間を通して見ると有意に(r=0.643, p<0.01)朝食を週に4日以上食べる人が増えていた。しかし,2010年以降にかぎると,その割合は一定の経年変化を示していない(図3)。他の3群では,22年間を通して一定の経年変化を示さなかった。朝食を週に4日以上食べる人の割合は,4群とも最近は変わっていないと云えるであろう。

そして,明らかなのは,男女とも1年生から4年生にかけて,朝食を週に4日以上食べる人の割合が大きく減っていることであり,殆ど食べない人や週に2~3日食べる人が増えている(図3)。多重ロジスティック回帰分析で他の要因の関与も同時に計算しても,1年生から4年生にかけて朝食摂取の習慣を失う人が多いのは間違いなかった。

朝食欠食の影響については広範な研究が行われ9),朝食欠食による健康の阻害が明らかであり,その点に関して我々の成績4)と一致する。また,20歳代の朝食欠食率は2005年から2015年までのデータで,男性が24.0~37.0%,女性が22.1~28.8%と報告されている10)。これは調査をした任意の1日で朝食を欠食した者の割合であり,我々の調査とは異なる方法だが,4年生の成績(図3)と同じような数値が得られている。

国民健康・栄養調査によると年齢が進むに従って朝食欠食率は低下し,50歳代の男性では11.7~17.8%,女性では7.7~13.8%となる10)。それだけの国民が改善可能な健康障害のリスクに長期間にわたって曝されているといえよう。大学在学中に朝食摂取の習慣を失わなければ,このようなリスクを背負わなくて済む可能性が高く,在学中の教育が重要であることを示している。

(3) 運動習慣と朝食摂取の習慣の関連

運動習慣と朝食摂取の習慣は重複していた(表1)。これは,男女の別や1・4年生の別とは独立して認められ(表2),人間科学部における調査から,我々が予想していた通り2)の結果であった。運動習慣を維持するために朝食をきちんと摂っているという関係が考えやすいが,今回の成績からこのような因果関係を断定することは出来ない。運動習慣も朝食摂取の習慣も同じ時点での調査であるので,原因は結果に先行するという一般原則から因果関係を推測することも出来ない。

ただ,運動をして朝食を摂れば,それで十分なのかは分からない。小学生を対象にした研究では11),朝食の摂取頻度は体力との関係が認められた身体活動水準と関連しなかったが,女子児童において食事構成の品数が多い朝食が高い身体活動水準に関連している可能性が示唆された。朝食の内容の充実が大切なのは,精神的な健康度についてはすでに報告されているが12),身体的な健康に関してもそうなのかも知れない。

今回の多重ロジスティック回帰分析で,運動習慣(30分以上の運動をしているか否か)と朝食摂取の習慣(週4日以上朝食を摂っているか否か)を目的変数にした時の評価指標―相関係数(r値)は,それぞれ0.1839,0.3319であった。決して高いr値ではないが,説明変数が性,学年,居住形態,それと運動習慣を目的にした時には朝食摂取の習慣,朝食摂取の習慣を目的変数にした時には運動習慣で,きわめて限られている。運動習慣や朝食摂取の習慣との関連が考えられる生活習慣要因として,睡眠の習慣や運動の頻度などもあり,それらを説明変数に取り込めればr値が高くなった可能性があると思われたが,他の生活習慣要因や運動の頻度に関するデータは得られていない。ここではオッズ比の値自体には重きを置かずに,有意の説明変数として検出されたことを重視した。

一方,多重ロジスティック回帰分析では,説明変数に居住形態を含んだ。運動習慣と朝食摂取の習慣とでは居住形態の関与が異なった。すなわち,運動習慣は居住の場所と関連せず,朝食摂取の習慣は親と一緒に,あるいは親戚宅に住む方が週4日以上食べている割合が高かった。親が朝食を準備している可能性が考えられたが,それを示すデータはない。

(4) あり得るバイアス

一般に,しっかり運動して,朝食を摂るのが望ましいと考える人が,自分の行動を尋ねられた時に,その望ましい方向に偏って回答する可能性―すなわちsocial desirability bias(社会的望ましさバイアス)13)は否定できない。そのような社会的望ましさバイアスに引きずられた人が多ければ,30分以上の運動を続けている学生の割合や週4日以上朝食を摂取している学生の割合を実際よりも高く見積もった可能性があるが,それぞれの経時的な変動や性や学年による差などに影響したかは不明である。

(5) 今後の課題

朝食摂取については,すでに述べた通りで,在学中に朝食摂取の習慣を失わせないようにするには,どのようにするのがよいかは,これからの検討課題である。大学としては,学生食堂に対して補助金を出して,朝食摂取を支援しているが,今回のデータはそれだけでは不十分なことを示している。

多重ロジスティック回帰分析では,運動習慣を持つ学生の割合が,女性よりも男性で,1年生よりも4年生で高いことも確認した(表2)。この4年生の結果は年度初めのものである。サークル活動に参加している学生も多く,卒業・就職を前にして,彼らは活動から引退するであろう。ハーバード大学の卒業生を追跡した研究では14),在学中に大学の代表選手として活躍していても,卒業後に運動習慣を失えば心血管病のリスクは高くなる。したがって,九産大の学生でも,運動習慣を維持することが望まれるが,この点に関するデータは得られてなく,運動習慣を維持させる良い方法も知られていない。4年生でサークル活動を引退した後の支援が卒後の運動継続につながると思うが,これについて具体的なデータはない。これも,今後の課題である。

5. 結語

九州産業大学の1年生,4年生について,2003年から2024年までの運動と朝食摂取の習慣について分析した。運動習慣については,現在の調査票になった2018年以降では,4年生の男性以外ではその習慣を持つ割合は不変である。運動が嫌いな学生と嫌いではないが運動とは無縁である学生は,いずれも男性よりも女性の方が,また1年生よりも4年生の方が多かった。朝食摂取の習慣については,2003年からの全期間を通じて同じ質問をし,男女ともに,あるいは1・4年生ともに,一定の経年変化を検出できなかった。男性よりも女性の方が朝食摂取の習慣を持つ割合が高かった。在学中に朝食摂取の習慣を失うのは,男女ともに観察された。最後に多重ロジスティック回帰分析を行い,運動習慣と朝食摂取の習慣が性や学年によらず重複することを示した。

謝辞

毎年の学生の定期健康診断と諸調査が円滑に実施できるよう,努力を惜しまなかった事務職員の皆様に深謝いたします。本論文に関して,開示すべきCOI状態はありません。

文献
 
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