抄録
本研究の目的は、活動を統制する個人の特性(活動指向性/状態指向性)の測定尺度であり、開発者によって一部項目の修正されたACS90原版の日本語版Action Control Scale(J-ACS)を新たに作成し、その信頼性と妥当性を検討することである。活動指向性とは感情を効率よく自己制御し、意図的に行動しやすい傾向である。一方、状態指向性とは感情制御が困難であり、意図に行動が伴わない傾向をもつ。ACS90原版を和訳しBack-translationを行ない、J-ACSを作成した。調査は、2008年1月〜6月、4年制大学の男女学生354名に実施した。J-ACSの因子分析の結果、3因子(AOF:執着性、AOD:躊躇性、AOP:移り気性)が抽出され、因子構造はほぼ先行研究と合致した。ACS90原版の開発者の設定とは別の因子に高い負荷量を示す項目が2項目生じたが、これも先行研究と合致していた。J-ACSはACS90原版とおおよそ一致し、高い信頼性(Cronbach α係数0.76〜0.49、折半法0.82〜0.46)および妥当性をもつことから有用な尺度であると考えられる。また、内部相関は低く、下位尺度が互いに独立であることを示した。しかし、AOPについてはCronbach α係数(0.49)および折半法(0.46)による信頼性係数が低く、今後も検討が必要である。意図を行動に移しやすい傾向、ネガティブな感情のコントロールや頭の切り替えが早いことは保健行動と関連する。対象者の特性を考慮した上での健康教育は、より効率的で適切な健康行動を引き出す可能性があり、今後は具体的な健康行動におけるJ-ACSの応用性についてさらに検討してゆく必要がある。