国際プロジェクト・プログラムマネジメント学会誌
Online ISSN : 2432-9894
世界金融危機とP2Mへの新たなニーズ : 機能重視型ハイブリッド経営で日本企業は生き残れるのか
木下 俊彦
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ジャーナル オープンアクセス

2009 年 4 巻 1 号 p. 41-57

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抄録

現在、世界経済は世界金融危機以降の景気後退の最悪期は終えたが、なお、先行き楽観を許さない状態にある。その中で、日本企業は現在、どういう状況にあり、どういう方向に進むことが求められているのだろうか。その過程で、P2Mはステークホールダーになにか有用な貢献ができるだろうか。筆者は、イエスと答えたい。日本企業は、今回の危機のまえに、バブル経済崩壊以降の「失われた10年」を経験していた。筆者の理解では、日本の優れた企業は、この間、正しいミッション(ビジョン)をもち、機能重視型ハイブリッド経営を実施、大きな成果を上げつつあった。それは、そう徹底したものでなかったが、まちがいなく、部分最適から全体最適へ向けた進化のプロセスであった---ただし、それは、「革新型」というよりは、総じて、「カイゼン型」であった。しかし、成長率は上昇せず、デフレ基調だったマクロ経済のもとで発生した非正規採用者の増大や所得格差拡大など負の側面が見られたため、日本企業の経営進化プロセスは正しく理解されず、マクロ経済同様、ミクロ経済(企業パフォーマンス)でも日本企業モデルも長く停滞していたように理解されがちだった。そういう内外の理解の是正が求められていたとき、米国発の世界金融が発生、日本のマクロ経済、ミクロ経済は新たな挑戦に立ち向かわなければならなくなった。今回の危機は、資本主義の根幹を揺るがすような激震を世界各国・地域に与えている。それは、震源地の米国はもとより、日本や欧州でも新興国経済でも同様である。従来世界の見本のように喧伝されてきた米英経済・企業モデルの重大な欠陥・問題点が明らかになってきた。筆者は、世界がその危機・衝撃から立ち直る苦しみの中から、産業・技術・ライフスタイルの大変革を伴うパラダイムシフトが広く見られると確信する。そういう新局面では、とくに日本企業には、「ミッション+合理的予測」から、逆に自らの立ち位置や発展戦略を素早く変えていく新たなプログラム・アプローチが必要とされよう。「進化するP2M」---それこそが、P2Mが創設された基本理由だったのだが…は、新たな「リーダーシップ主導」による革新型のアプローチを求めている。われわれが今着手しなければならない課題は、そのような新たなフィードバック・アプローチを用いてこれから日本経済・企業やアジア諸国の経済・企業が歩むべき戦略とそれに関連するリスクの極小化であろう。本稿では、そういう問題意識で、日本・企業が進むべき、あるいは、採るべきでないいくつかの具体策を示したが、その一般化・統合モデル提示にはなおかなりの作業が必要である。

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© 2009 一般社団法人 国際P2M学会及び著者
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