関西学院大学先端社会研究所紀要
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論文
国家のはざまを生きる
-中国雲南省新平イ族タイ族自治県における文化的再開発-
村島 健司林 梅荻野 昌弘西村 正男
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2015 年 12 巻 p. 1-15

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抄録

国民国家は、今日の社会において政治的、社会的秩序を維持するための支配的な形態である。しかし、歴史的には国家の統治によらない仕組みを作り出してきた社会が存在する。本研究では、こうした社会が、国家に組み込まれることによってもたらされる社会変動に対してどのように向き合っていくのかについて、中国雲南省新平イ族タイ族自治県の事例をもとに、とりわけ改革開放以降の文化的、そして社会的変動に焦点をあてながら検討する。新平県における文化変容を理解するために、本稿では、〈文化的再開発〉という概念を提示する。「伝統の創造」や「再帰的近代化」といった類似の概念に対して、文化的再開発概念は、経済開発と文化変容が密接に関わっていることを強調する。新平県の少数民族は、程度の差こそあれ、国家が促進する経済開発に服従し、経済や政治の要求に応じて自らの文化を再開発して表象することを余儀なくされている。たとえば、都市開発において建造されたモニュメントは、政府が意図する簡素化された少数民族の文化を表象する。あるいは、観光開発に伴い新たな舞踊が創造され、それが観光客の前で上演される。しかしながら、これらは国家の権力に対する単純な服従を意味する訳ではない。そこでは同時に、少数民族自身が自らの生活スタイルを保護しようとする試みも、観察することができるのである。

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© 2015 関西学院大学先端社会研究所
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