印度學佛教學研究
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Root-Aorist Participleの機能について
堂山 英次郎
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2008 年 56 巻 3 号 p. 1043-1048

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抄録

ヴェーダ語の動詞時制幹である現在幹とアオリスト幹には,印欧祖語に遡る機能的差異として,動詞の動作を全体として見るか(全体観)或いは動作をその経過の中で見るか(途中観)という観方(アスペクト)の違いが指摘されてきた.この差がヴェーダ語のinjunctiveや直説法において有意的であることは既に指摘されているが(HOFFMANN Der Injunktiv im Veda,1967),他の動詞範疇(接続法,願望法,分詞等)においては,十分な研究は未だ為されていない.本稿では,アオリスト分詞の大半を占める語根アオリスト分詞(殆どRVのみで例証)の用例を,現在分詞や完了分詞との関係や主動詞との関係において吟味し,アスペクトの現れの有無を検討した.その結果,語根アオリスト分詞に特徴的な機能として,主動詞の動作に先行して起こる動作を表現する;主動詞の帰結を表わす;動作を一般論化し,動作主あるいは指示対象の一般的性質を表わすことが確認された.これら三つの諸機能はいずれも,アオリスト語幹の動作を幅の無い点として観る,或いは動作そのものだけを問題とする全体観アスペクトによって最もよく理解されうる.動作全体を外から観る時,それは未来か過去のもの,もしくは一般論として対象化されるのが自然であり,上記の三機能はこの三つの可能性に対応していると言える.一方,アオリスト分詞が主動詞の動作と共起する動作を表わす用例も見られた.検討した用例では主動詞のAktionsartが瞬間的であり,またアオリスト語幹が用いられていることから,それに伴う分詞の選択にもアスペクトが関与している可能性も排除出来ない.扱った用例は網羅的ではないものの,多くの用例が上記のような機能的特徴を示すという調査結果は,リグヴェーダの言語においてまだアスペクトの差異が機能或いは残存していたことを裏付けるものと思われる.

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© 2008 日本印度学仏教学会
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