印度學佛教學研究
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Panini-Sutraに見られるヴェーダ語のintensive語形
―― nipatana語形の問題――
尾園 絢一
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2008 年 56 巻 3 号 p. 1072-1076

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抄録

Panini-Sutra VII4,65にはヴェーダ語の重複語幹の語形が列挙されている.これまでのところ,chandas「ヴェーダ語」はRV,黒YS(散文部分も含む)まで含むことが明らかにされている.問題はその後に成立した文献,特にSBやABといったBrahmanaをも含むかということであり,検証が必要である.Panini-Sutraに収録されているnipatana語形の位置づけの問題はこのことと関連している.伝統文法学によれば,nipatanaとは規則によって説明できない語形を直接引用して確立することである.殆どの場合,何らかの意味での例外語形と解しうるが,その中には通常の規則から導かれる語形もある.従って化石化したヴェーダ語形をPaniniはどのように位置づけ,伝統説がどのように処理したかということについても考察が必要である.VII4,65に挙げられる語形の中,dadharti,dardharti,dardharsi,bobhutu,tetikteは以上の問題を考える上で特に重要である.ヴェーダ語の規則に一致する語形の圧倒的多くはRV,黒YSに見られる中,redupl.pres.dadharti JB II 27はBrahamana文献のみに見られる数少ないものである.しかし,同所に見られるdadharayatiが挙げられていないことをも考慮する必要があり,Paniniがこの箇所を念頭に置いていたとは考えにくい.Paniniはこれらをintensive語形と見なしていたと判断されるが,dardharti,dardharsiは通常の規則によって説明されるにもかかわらず,nipatana語形として挙げられていることが注目される.ヴェーダに見られる形であっても,通常の規則によって説明できるものが挙げられることは珍しい.Paniniは,たとえ通常の規則によって説明される語形であっても,彼の時代に既に化石化していたヴェーダ語形を記録したものと思われる.即ちnipatana語形は規範的観点からだけでなく,日常の用法の観点からも挙げられていることが推測される.

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© 2008 日本印度学仏教学会
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