印度學佛教學研究
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パーリ文献中のスメーダ・カター
――南方仏教伝承の総括および北伝資料との関連について――
松村 淳子
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2008 年 56 巻 3 号 p. 1086-1094

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抄録

燃燈佛授記物語は南北両伝の仏教文献に数多く語られるが,伝承により様々な要素が含まれ,その相互関係について把握するのは極めて困難である.そこで本稿では南方伝承であるパーリ文献中に見られる燃燈佛授記物語,すなわちスメーダ・カターの総括を試みた.その結果,南方伝承ではBuddhavamsaの韻文物語ならびにその註釈中の散文物語を合わせたものが正統的で完全なスメーダ・カターと見做され,それは一般によく知られたジャータカ・ニダーナカター中のものとは細部において異なること,またチャリヤー・ピタカ註やマハーボーディヴァンサには,大乗的な誓願の思想がはっきりと看取できることを指摘した.また,パーリ文献のスメーダ・カターは布髪供養による授記物語であり,散華供養と布髪供養の二つの要素が通常見られる北伝の燃燈佛授記とは対照を為しているが,パーリのアパダーナには布髪供養ではなく散華供養により授記を受ける物語(Theri-Apadana No.28)があり,またNo.468 DhammaruciはMahavastu,Divyavadana,増壹阿含經,經律異相に対応が見られるスメーダ・カターを含むことを指摘し,特に親近性の強いMvuとの比較を示した.説話としてみた場合,散華供養による授記物語と布髪供養による授記物語はそれぞれ単独に成立し,それが後に合わせられたと見るのが自然であり,ガンダーラ美の中にも,布髪供養のない表現が見られることを傍証として指摘した.

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© 2008 日本印度学仏教学会
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