印度學佛教學研究
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Veda文献における動詞ati-pav^i/pu
西村 直子
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2012 年 60 巻 3 号 p. 1132-1137

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抄録

本稿は,Veda文献に見られる動詞ati-pav^i/puの語形,用例,分布の分析を通じて語義の展開を跡づけることを目的とする.本動詞は最古のRg-Vedaにおいて「(Somaが)(清めの道具などを)越えて清まる」の意で用いられていたが,ヤジュルヴェーダの散文以降は特定のIndra神話と結びつけられてSautramani祭を巡る議論に頻出する.その文脈では祭主の身体が清めの道具と見立てられ,「Somaが人を通過して清まる」,即ち飲んだSomaを下痢・嘔吐などで排出するという特定の身体症状を指す語として用いられる.動詞pav^i/puは,RV以来,現在直説法3人称単数pava-^<te>によって「清まる」を,またpuna-^<ti>及びpuni-^<te>によって「清める」をそれぞれ意味している.使役形にはpavaya-^<ti/te>の他にpavaya-^<ti/te>があり,揺れが見られる.動形容詞形は弱語幹から作られるputa-が正規形かつ一般的であるが,前綴りatiを伴った場合にのみ,ati-pavita-を伝える文献がある.(ati-)pavita-の由来は明らかにできないが,Brugmannの法則を前提に求められる本来の使役形pavaya-^<ti/te>を出発点とする可能性は排除できない.pav^i/puの使役形にatiを伴う例は,Maitrayaniya派を中心とするSrautasutraにatipavayatiが僅かに見られるのみであり,ati-pavita-は使役語幹pavaya-を伝えるTaittiriya派に影響されたものか,又は本来的な語幹の形が残ったものと推測される.atipavita-の初出はKathaka-Samhita(散文),正規形のatiputa-はsomatiputa-の形で,Satapatha-Brahmana以降に現れる.somatiputa-はsomatipavita-(SBK,JBなど)と同様「その人を通過して清まったSomaを持つ」という形容詞として用いられるが(Bahuvrihi),前者は特異な語形を含む後者をMadhyandina派が置き換えたものと考えられる.

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© 2012 日本印度学仏教学会
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