2015 年 63 巻 3 号 p. 1295-1301
Bhaviveka (490/500-570)のPrajnapradipaは,インドの仏教僧プラバーカラミトラによって,630-632年にかけて漢訳されたことが知られているが,このプラバーカラミトラという名前に関して,一般的にその異名として知られるプラバーミトラという名前が本来の名前ではないかという見解が存在する.本稿では,このプラバーカラミトラが行った三つの翻訳の訳場全てに参加し,筆受として重要な役割を果たした法琳という人物の『弁正論』の中に,プラバーカラミトラという名称が記載されていることを指摘し,プラバーカラミトラの名前の妥当性を再確認した.また,2011年より行ってきたPrajnapradipaの漢訳とチベット語訳の比較に基づく研究プロジェクトの最終報告の要約として,Prajnapradipaの漢訳の特徴を大きく三つに分類した.それらは,(1)漢訳の元になったサンスクリット原典に存在したものの,漢訳において省略された可能性がある例,(2)元々のサンスクリット原典に存在しなかった可能性がある例,(3)訳出において生じた差異,という三つであり,それぞれに対して実例を挙げて示した.