印度學佛教學研究
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刹那滅論証方法に関するチョムデンリクレルの理解
崔 境眞
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2017 年 65 巻 3 号 p. 1289-1294

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抄録

「不依存の論証因」(ltos med kyi rtags)と「拒斥する論証因」(gnod pa can gyi rtags)は,諸法の刹那滅性を論証するために,Pramāṇaviniścayaやその他の自著の中でダルマキールティが展開した論証内容に由来する術語である.インド仏教論理学ではそれぞれ,「不依存性」(nirapekṣatva)と「反所証拒斥論証」(sādhyaviparyaye bādhakapramāṇam)という術語で知られている.この二つの論証法の関係とそれぞれの役割をめぐってチベット人学僧たちの間で少なからず異論が見られており,カダム派からゲルク派の時代に至るまでの間に思想史的な展開が見受けられる.

本論文で取り上げるチョムデンリクレル(bCom ldan rig pa’i ral gri Dar ma rgyal mtshan, 1227–1305)は,カダム派末期からゲルク派初期までの間に活躍した学僧であるが,彼が著したPramāṇaviniścayaに対する註釈が現存している.チョムデンリクレルはその註釈で大方は既存の註釈の解釈に従いながらも,「拒斥する論証因」についてそれまでにはなかった新たな視点を提示しており,彼以降に著されたチベット撰述の論理学書では彼の影響とみられる解釈が主流となっていく.本論文では,当該の二つの論証法に対する彼の理解を提示し,それが後代に,すなわちゲルク派にいくらかの影響を及ぼした可能性があることを指摘した.

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© 2017 日本印度学仏教学会
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