印度學佛教學研究
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瑜伽行派と『十地経』との関係――入正性離生の用語を通して――
Vo Thi Van Anh
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2018 年 66 巻 3 号 p. 1096-1101

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抄録

入正性離生/決定(samyaktvanyāmāvakrānti / -niyāma- / -niyama-)という語は,従来の指摘のように,原始仏教以来,定型的に用いられ,凡夫から離れて初めて聖者位に達することを示している.その語は瑜伽行派において,十地のうち,初地の別名であることが知られている.

本稿は,瑜伽行派における入正性離生の意味内容を解明し,その入正性離生に沿って,瑜伽行派と『十地経』との思想史的関係について新しい解釈の提示を試みるものである.瑜伽行派における入正性離生は,既存の伝統仏教のものを継承しており,自派の階位説を確立する際に採用されたと考えられる.初地を見道とし,入正性離生をその初地の別名としていることは,『解深密経』など以来の瑜伽行派の特徴であると言える.その入正性離生という語が『十地経』の旧漢訳にはないため,新漢訳本やサンスクリット本においてこの語が挿入されたものと考えられる.その挿入者については,瑜伽行派が入正性離生を重要視する点,同学派の地説の解釈と類似する点,『十地経』の担い手という点からしても,かれらである可能性が高い.

従来,大乗の修行階位は『十地経』に基づいたものであると理解されているが,この入正性離生の検討によって,瑜伽行派の修行階位は『十地経』から思想的影響を受けただけでなく,自派で確立した思想を同経に組み入れた側面も考えられる.

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© 2018 日本印度学仏教学会
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