印度學佛教學研究
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Madhusūdana Sarasvatīの修行論におけるヨーガの位置づけ
眞鍋 智裕
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2020 年 68 巻 3 号 p. 1141-1146

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抄録

16世紀後半から17世紀前半のアドヴァイタ・ヴェーダーンタ学派の学匠であるMadhusūdana Sarasvatīは,彼のバクティ論の著作Bhaktirasāyana (BhR)に対する自註Bhaktirasāyanaṭīkā (BhRṬ)において,〈人間の目的〉(puruṣārtha)としてkarmayoga, aṣṭāṅgayoga, jñānayoga, bhaktiyogaの四つのヨーガ(実践)を提示する.これらはそれぞれ,祭祀行為の実行,パタンジャリ(Patañjali)のYogasūtra (YS)に基づくヨーガの実践,アドヴァイタ学派におけるブラフマンの明知(brahmavidyā)獲得のための実践,ヴィシュヌ教(Vaiṣṇava)の一派であるバーガヴァタ派(Bhāgavata)の信愛(bhakti)の実践のことである.従来のマドゥスーダナ研究は,これらのうち,jñānayogaとbhaktiyogaとの関係に専ら焦点を当てており,マドゥスーダナの実践論において四つ全てのヨーガを体系的に理解しようとはしてこなかった.そこで本稿では,マドゥスーダナの実践論を体系的に理解するため,先ず,彼の修行体系において,特にjñānayogaとの関係においてaṣṭāṅgayogaが占める意義を考察した.

マドゥスーダナは,aṣṭāṅgayogaを思考器官の止滅の手段と考えている.また,その思考器官が止滅した時,アドヴァイタ学派におけるブラフマンの考究のための必要条件である心の静穏・自制等が達成されるため,マドゥスーダナは,aṣṭāṅgayogaを静穏・自制等の達成の手段であると見做している.そして,静穏・自制等の達成,ヴェーダーンタの文の聴聞・思惟・熟考の達成,それらの修習という次第を経て真実の知が生起するため,マドゥスーダナはaṣṭāṅgayogaを,間接的に真実の知の手段であると考えている.これらのことは,マドゥスーダナは,aṣṭāṅgayogaをブラフマンの考究のための前段階に位置づけているということを示していよう.そしてこのことは,BhRṬにおいてaṣṭāṅgayogaがjñānayogaの前段階とされていることと一致している.

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© 2020 日本印度学仏教学会
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