印度學佛教學研究
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六気治病法と『小止観』の関係について
李 四龍
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2020 年 68 巻 3 号 p. 1271-1279

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抄録

天台『小止観』は中国では『童蒙止観』と通称されている.日本では,1950年代に,写本『略明開矇初學坐禪止觀要門』(以下:『止觀要門』)が関口真大先生によって新しく発見され,使われてきた.

『止觀要門』には,「天台山顗禅師説」「斉国沙門浄辨私記」の題記があるので,『小止観』が智顗が兄のために自ら著述したものであるという学界での通説は否定された.本稿では『小止観』は歴史上二つの伝承系統があることを示す.一つは元照系の『小止観』であり,北宋で刊行され,元照の序が付記されている.通行本『童蒙止観』である.もう一つは浄弁系の『小止観』であり,刊行はされておらず,「浄辨私記」という題で,写本として流行していた『止觀要門』である.『止觀要門』は『小止観』の古い形ではなく,宗密の『円覚経道場修証儀』に引用されている『小止観』が最も古い形である.

本稿では,『童蒙止観』は北宋で刊行された時に,すでに改編されていたか否かを,『小止観』で言及された「六気治病法」を通じて考察する.

「六気治病法」というのは,中国民間から生まれ,道教に吸収された治病方法である.智顗が『次第禅門』『天台小止観』『摩訶止観』の中で,治病を論じる時,この治病法についてよく言及したが,版本によって内容が異なっている.『次第禅門』『摩訶止観』に説かれている「六気治病法」は『止觀要門』と同じく,また,同時代の名医道士陶弘景と孫思邈の治病法と同様である.しかし,『童蒙止観』の内容はそれらと異なる.中に智顗時代の中国医学に合わない面があり,それは北宋以後流行してきた「孫真人衛生歌」と一致し,晩唐の女道士胡愔が主張した「治心用呵」という理論からきたと考えられる.

本稿では,『小止観』を例に,宗教典籍の改編が,経典化される際よく使われる方法であることを説明したい.特に,古代中国において,これも思想が進化する表れの一つである.

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© 2020 日本印度学仏教学会
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