2023 年 71 巻 3 号 p. 1033-1038
ダルマキールティ(600-660)のアポーハ(anyāpoha)と,純粋否定(prasajyapratiṣedha)・定立的否定(paryudāsa)との関係性について検討を行った.
ダルモーッタラ(740-800)は『アポーハプラカラナ』(Apohaprakaraṇa)や,『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』(Pramāṇaviniścaya)に対する注釈(Pramāṇaviniścayaṭīkā)といった自身の著作において,「ダルマキールティのアポーハは純粋否定とのみ関係する」と述べる.しかし,adhyavasāyaの用法を含め,ダルモーッタラ独自の見解に基づいた理解と言える.ダルモーッタラ,シャーキャブッディ(660-720),そしてチベット人注釈家であるタルマリンチェン(1364-1432)の3者は,PV 1.169の注釈からそれぞれアポーハに言及しており,PV 1.169はアポーハの性質を表す偈として彼らに位置付けられていた.
また,3種のアポーハに言及するシャーキャブッディ,シャーンタラクシタ(725-788),タルマリンチェンの見解を統合すると,ダルマキールティのアポーハは純粋否定のみではなく,定立的否定をも含意していると考えられた.