印度學佛教學研究
Online ISSN : 1884-0051
Print ISSN : 0019-4344
ISSN-L : 0019-4344
med dgagとma yin dgagに関する再検討
根本 裕史
著者情報
ジャーナル フリー

2023 年 71 巻 3 号 p. 1077-1084

詳細
抄録

 本論文はチベット仏教におけるmed dgagとma yin dgagという二種の否定に関わる概念を再検討するものである.サンスクリットの二種の否定表現として良く知られるprasajyapratiṣedha「想定否定」とparyudāsa「制限否定」は,シャーンタラクシタとカマラシーラのアポーハ論や,チベットのサンプ僧院で展開した空性論証解釈を経て,med dgag「不在」(ツォンカパによれば,何かの否定という形でのみ知られるもの)とma yin dgag「非在」(ツォンカパによれば,否定を通じて認識内に別の存在要素を投影するもの)という認識論的な概念へと変容した.これらがゴク・ロデン・シェーラプ,トルポパ,ツォンカパの中観思想・仏性論で重要な意味を担っている.多くの研究の蓄積があるにもかかわらず,今なお不明瞭と思われるのは次の二つの問題である.[1]チベット的なmed dgagとma yin dgagの特質は何であるか.[2]瑜伽行者の宗教的体験をma yin dgagないしmed dgagの概念によってどのように説明できるか.本論文ではこれらの問題を精査することにより,瑜伽行者は入定中に何も見ないのだとするガンポパ説,ma yin dgag「非在」を見るのだとするトルポパ説,med dgag「不在」を見るのだとするツォンカパ説の特色を論じ,med dgagとma yin dgagの概念がチベット仏教修行理論の本質を理解する上で有効な着眼点となることを指摘する.

著者関連情報
© 2023 日本印度学仏教学会
前の記事 次の記事
feedback
Top