抄録
中部地方領家帯の伊那山脈を横切る小渋川沿いに,長径 2000 mほどの楕円状の苦鉄質岩体がある.これを, 地域名をとって,桶谷苦鉄質岩体と呼ぶことにする.桶谷苦鉄質岩体は細粒〜粗粒の苦鉄質岩から成り,細粒 部と粗粒部が互いに漸移することと変成岩捕獲岩を多数含んでいることが,他の領家帯の苦鉄質岩体には見ら れない特徴である.この度,桶谷苦鉄質岩体内の露頭が特定できそうな転石から,含十字石黒雲母片岩が見つ かった.領家帯からの十字石の報告は,愛知県幡豆—本宮山地域,段戸山地域,山口県柳井南部地域などに限 られ,本報告で 4 例目になる.本地域の十字石出現についての検討は,これからであるが,十字石の発見は変 成作用の環境を考える上で重要であることから,ここでは,とりあえず,産状とほかの産出地域との比較を中 心に報告した.