情報通信政策レビュー
Online ISSN : 2435-6921
学術論文
ゲーム産業におけるインターネット上の著作権侵害と経済効果
― ゲームプレイ動画とゲームソフト販売本数に関する実証分析 ―
山口 真一
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2014 年 9 巻 p. 178-201

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抄録

本研究では、インターネット上の著作権侵害による経済効果について、ゲーム産業を対象に実証分析を行う。問題意識は、著作権法違反であるゲームプレイ動画について、ゲームソフト販売本数に与える影響を理論的に整理し、その効果を定量的に分析することにある。分析では、ゲームプレイ動画のゲームソフト販売本数に対する影響を明示的に組み込んだ、ゲームソフト需要モデルを用いた。また、推定においては、観察出来ないゲームソフトの質が高いためにゲームプレイ動画再生回数が多くなり、結果的にゲームプレイ動画再生回数とゲームソフト販売本数の間に正の相関がみられるといったような、いわゆる内生性問題に対処する必要がある。そのため、操作変数を用いた2段階GMMによって推定を行い、識別を行った。操作変数には、動画投稿者の人気を表す変数を用いた。
まず、外生変数のみの誘導型モデルで推定を行った結果、動画投稿者の人気を表すお気に入り登録され数は、ゲームソフト販売本数に有意に正の影響を与えていた。このことから、より人気の高い動画投稿者がゲームプレイ動画を投稿し、消費者の視聴機会が増えることは、ゲームソフト販売本数を増加させる効果があることが確認された。次に、構造型モデルで推定を行った結果、ゲームプレイ動画の再生回数は、ゲームソフト販売本数に有意に正の影響を与えており、その大きさは、再生回数が1%増えると販売本数が約0.26%増加するというものだった。さらに、ジャンル別の推定では、ノベルゲームとレースゲームを除く5つのジャンルで有意に正の影響を与えており、それら2つについても有意に負の影響は見られなかった。このことから、ゲームプレイ動画は、消費者余剰を確実に増加させることと合わせると、社会的厚生に正の影響を与えていることが確認された。
以上の結果を踏まえると、ゲームプレイ動画を違法としている現在の著作権法は、社会的最適点より過剰な規制であると判断される。また、目前に迫っているTPPによって著作権侵害の非親告罪化がなされれば、ゲームプレイ動画投稿のリスクの増加、投稿の委縮に伴い、ゲームプレイ動画の持つ経済効果を失って社会的厚生を低下させる可能性がある。そこで、日本版フェアユースの導入等、より柔軟な規制の在り方を考えていく必要があるだろう。

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© 2014 総務省情報通信政策研究所
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