抄録
脳幹部の障害により小脳型失調症状を起こすと言われているが,脳幹部は各部位から入力を得ており,前庭迷路型,脊髄後索型の各運動失調を合併する場合も多い。今回,脳幹部出血により,左上下肢の測定障害と重度の感覚障害による運動失調を呈する症例を担当した。失調症の治療では,異常性の抑制と代償固定の解除により姿勢緊張を安定させ,分離運動を再学習することが必要である。これを念頭に置き,感覚入力と体幹・下肢の段階運動を主に治療した結果,立ち上がりは獲得され,歩行は歩行器使用にて自立した。感覚障害を呈する失調症状の治療では,測定障害に対するアプローチだけでなく,視覚・固有感覚等の感覚と運動を統合することが重要であった。