抄録
頸髄症の手術目的に入院した症例を担当した。本症例は,著明な閉塞性換気障害に加えて,頸髄症による呼吸機能障害を合併していたため,術後に肺合併症を併発するリスクが高かった。術後の肺合併症発症リスクを減少させる目的に術前から理学療法が依頼された。理学療法士は,理学療法効果をより高めるために,行動分析学的アプローチを併用した。開始前の先行刺激として,自主トレーニングチェックシートを付記した自作の呼吸理学療法教育用パンフレットを併用し,包括的な教育を行った。術後予測される肺合併症のメカニズムについて充分に説明し,肺合併症予防として排痰及び深呼吸と口すぼめ呼吸の重要性についての症例の充分な理解を得られるまで教育を実施した。また,呼吸法及び排痰法習得,呼吸筋力の向上を目的に呼吸理学療法を実施した。トレーニングの実施率を高めるための後続刺激として,理学療法士からの賞賛,トレーニングによって向上した呼吸筋力と呼吸機能検査値を実施当日に症例へフィードバックした。また,呼吸法及び排痰法の指導では,課題分析を用いた。症例のコンプライアンスは高く維持され,理学療法開始3週後,呼吸法及び排痰法のパフォーマンスは向上し,呼吸機能において1秒量は1.2 Lから1.3 L,1秒率は37.3%から41.6%,呼吸筋力は最大吸気圧31.7 H2Oから52.7 cmH 2O,最大呼気圧32.0 H2Oから54.5 cmH2Oと向上が認められた。結果,術前呼吸理学療法により,呼吸法及び排痰法を習得し,呼吸機能と呼吸筋力向上が得られ,手術が施行された。手術直後より,廃用性低下予防,深呼吸と排痰促進等,周術期管理を目的に理学療法士が介入した。深呼吸,痰の自己喀出は効果的に実施可能であり,肺合併症を発症することなく,順調に術後経過した。自作した呼吸理学療法教育パンフレットを用い,行動分析学的アプローチを併用した理学療法士の介入は,高いトレーニング実施率を維持することが可能であり,呼吸理学療法効果をより高めるに有用と考える。