抄録
最近に於ける無線通信の輻輳から,通信相互間の混信妨害を遞減するため,各種業務に對する周波數の割當が,國際的に協定され,從つて放送業務に對しても,現今一定の周波數帶が與へられてゐるとは云ひながら,地形の關係上數多の放送局を必要とする我國に於ては,既に各局への周波數割當問題に相當の困難を感じてゐる情勢にある。
斯る現状に鑑み,該問題解決の一方法として,空間に電波を發射する事の少いのを特徴とする電燈電力配電線利用の有線式放送方式が,現在の技術を以つてして,何の程度まで實用性を有するかに關し,昨年末茨城縣水戸市に於て試驗研究を行つたのである。
本文は其の試驗成績の大要を述べたものである。
送信機は主發振電力増幅式(最大出力200W)で,試驗周波數は主として60kc及び1,490kcの二種である。受信機としては非再生紙周波二段のエリミネーター式を使用した。
試驗の結果,周波數を60kcとして,距離に對する減衰度は1kmに付き約1.6db程度であって,水戸變電所位の配電區域(半徑約20km)の所では,送信機の電力(空中線入力)は30乃至40Wで充分な事が判つた。1,490kcの場合でも,小區域を目標とするならば相當實用的である。滅衰度は1kmに付き約2.7db。
電波としての輻射は,60kcならば非常に少く實用上差支へない程度である,1,490kcでは比較的多い。尚雜音妨害も豫想に反して少く,近接受信機相互間の干渉とか,電燈點滅による受信強度の變化等は全然認められなかつた。
要するに,周波數60kc附近を使用すれば,技術的には,充分有利に本放送方式を實施し得べき事を確め得た。