抄録
照度を時間的に十分ゆっくり変化させると,ある範囲までは我々はその空間の明るさの変化を感じないと考えられる。しかしその照度変化が蓄積されていけばいつかは明るさの変化を感じることになる。本研究では模型空間に対する照度を時間的に低速度で変化させたときに,その明るさの変化を検出する閾値を測定し,照度の時間変化知覚の決定要因を検討した。被験者はテストボックス内を観察する。テストボックス天井面の白色蛍光灯は,多回転式の可変抵抗の回転を制御することによって,時間的に低速度で調光することが可能である。本研究ではボックス内の照度を増加あるいは減少の一定方向にゆっくりと変化させたときに,被験者が明るさ変化を知覚するまでの照度変化量を測定した。初期照度は増光375_から_2625 lx,減光750_から_3000 lxの各7段階,照度の時間変化率は5種類(照度一定条件含む)とし,これらを組み合わせた全32刺激をランダムに呈示した。実験の結果,すべての条件に対して初期照度と変化知覚照度との間に強い相関がみられた。これは明るさ変化の知覚が初期照度と照度変化量との比によって決定されていることを示している。ただし,比の値は照度変化率によって異なった。しかし一方でこのような傾向からかなり外れた結果も見られた。時間的に低速度の照度変化に対しては,初期照度の記憶や何らかの絶対的な明るさ判断が関与している可能性も示唆される。