精神療法はなぜ効果があるのか.その解明のプロセスと結論を示す.精神療法過程で生起した顕著な治療的変化に注目し,そこに劇的な治癒機転が内在しているとして,顕著な治療的変化が生起する前提条件的要因とそれが生起する4つの治療状況を分明にした.しかし,治癒機転の究明は進捗せず,着実な治療的変化に注目して,多角的課題解決療法(DTOP)を開発した.その後,劇的な治癒機転を構成する次の5つの治療的変化を明示した.①情動覚醒,②治療者への共感,③共感に基づく自己省察,④治療者との問題意識の一致,⑤治療者についての意識変革.さらに,ここで⑥意欲の発動を加える.刑務所を出所後,殺人事件の危険性が高かった症例が3回のDTOPで,また退職寸前の症例が6回のDTOPで新生したのは精神療法の効果を明示している.それは前述の②③である「自他理解機能(reflective function, Fonagy)」と,④⑤⑥である「対処機能(coping function)」が生起し病者は新生できたと考えられる.