2020 年 18 巻 1 号 p. 2-13
高齢者が生涯にわたり活躍する社会の実現においては,退職後のquality of life(QOL)が益々重要となる.退職まで人は多くの時間を職場で過ごすが,職場での働き方が後の人生に重要であるか否かについてはよく理解されていない.今回,現役時の働き方がどのように退職後のQOLと関連するかについて高齢期の心理社会的資源を踏まえて検証することを目的とする.
2012年富山県にて生涯学習の講座を受講した60歳以上の204名(うち男性85名,女性119名)を分析に使用した.研究は横断研究であり,高齢期のQOL評価にはCASP-19(Control, Autonomy, Self-realization, Pleasureの4要素から構成され19項目のQOL尺度)を用いた.高齢期の心理社会的資源として一般性自己効力感,社会性自己効力感,孤独感の尺度を用いた.分析には,共分散構造モデルを用いて,現役時の働き方が退職後のQOLに寄与するかどうかを心理社会的資源との関連を踏まえて検証した.
CASP-19の平均点は,男性41.3点(標準偏差6.3),女性42.6点(標準偏差5.7点)で,男女及び年齢による違いはみられなかった.共分散構造モデリングによる分析の結果,現役時の働き方を含んだモデルにおいて適合指標が高い結果となった.構造モデルによるパス解析では,現役時の働き方は,心理社会的資源からなる潜在因子を経由して,QOLと関連する間接効果がみられたが,直接的な関連はみられなかった.モデルの適合度指標は,GFI=0.990,AGFI=0.970,CFI=1.000,RMSEA=0.009であり,適合度は良好であった.
今回の研究は横断研究であり因果推論に注意を要するが,懸命に働くという経験を効力感や人間関係を向上させる機会に発展させることで,退職後のQOLが向上する可能性が示唆された.