2020 年 60 巻 p. 69-76
わが国では2005年頃より皮膚がん罹患率が急増しており,それを受け2015年に日本臨床皮膚科医会・日本小児皮膚科学会が「保育所・幼稚園での集団生活における紫外線対策に関する統一見解」と「学校生活における紫外線対策に関する統一見解」を,環境省が「紫外線環境保健マニュアル2015(2008年版の改訂)」を公表した。これらの取り組みにより,子育てに関わる保護者や幼児・児童の教育に関わる幼稚園教諭・教職員らに紫外線による健康被害や幼少期からの紫外線対策の重要性が正しく認知され実施されているかを検証するためアンケート調査を行った。その結果,紫外線の影響を最も受けやすいのが子どもであると認識しているにも関わらず,保護者や幼稚園教諭・教職員自身の紫外線対策は行っているが幼児・児童に対しては充分に行われていないことが明らかとなった。オーストラリアやアメリカでは幼少期からの紫外線対策についての教育と実施の取り組みが行政・民間機関の協力によって行われ成果を上げており,世界保健機関(WHO)は子どもの紫外線対策の継続的な実践と紫外線に対する教育の重要性を強く訴えている。わが国では紫外線曝露による皮膚がんなどの健康被害に対する国民の関心が極めて低く紫外線対策はまだ充分に行われていない。紫外線ならびに紫外線による健康被害に関する教育体制を可及的速やかに構築することは国家プロジェクトに値すると言っても過言ではない。