2023 年 66 巻 p. 141-144
B群溶血性連鎖球菌(Group B streptococcus; GBS)は新生児期・乳児期に感染すると重症化することが知られている。遅発型GBS感染症の原因としては経母乳感染が挙げられるが,経母乳感染の場合,再発例の報告があり治癒後の栄養方法に苦慮する場合がある1)。今回,経母乳感染により遅発型GBS菌血症を呈した新生児の症例を経験し,母乳栄養継続希望があったため再発予防目的に定期的に母乳培養を確認した。経母乳感染による遅発型GBS感染症後に母乳栄養を継続した報告は少なく,母乳培養を定期的に行うことで児の再発を予防できたため報告する。
B群溶血性連鎖球菌(Group B streptococcus; GBS)は,新生児敗血症および髄膜炎の主要な起因菌の一つである。近年,遅発型GBS感染症を引き起こす原因として汚染された母乳を介した経路が考えられている。GBS感染症は発症時期により早発型,遅発型,超遅発型に分類することが出来る。それぞれ感染経路が異なり,遅発型GBS感染症は水平感染が多いと言われ,中でも経母乳感染の場合,治癒後の再発率が高いことが報告されている1)。遅発型GBS感染症の乳児の母乳培養について検査すべきかについてのコンセンサスはなく未施行の症例も多い。また経母乳感染と判明した後の栄養方法に関して明確な指針は定まっていない。
症例:日齢13 女児
主訴:発熱,哺乳不良。
既往歴:特記事項なし。
周産期歴:在胎40週1日,体重3,532 g,経腟分娩,36週時点でGBS陰性,出産時母体抗菌薬投与なし。
栄養:母乳栄養,入浴・眠前のみミルク,母体乳腺炎の既往なし。
生活歴:sick contactなし,第2子(第1子の母体GBS検査歴は不明)。
現病歴:第1病日に39°Cの発熱,哺乳不良を呈し当院救急外来を受診した。新生児発熱の診断で加療目的に入院した。
入院時現症:体温39.7°C,血圧66/30 mmHg,心拍数170回/分,SpO2 97%(室内気)。
活気比較的良好,大泉門平坦,咽頭発赤軽度,心音整,呼吸音清,腹部軟,腸蠕動音正常,関節可動域制限なし,四肢末梢冷感なし。
入院時検査:静脈血液ガス分析では酸塩基平衡は保たれていたが,Lac 3.9 mmol/Lと乳酸値の上昇を認めた。血液検査では白血球数(WBC)6,400/μL(Neu 74.9%, Lym 20.8%),CRP 1.30 mg/dLと軽度の炎症反応上昇を認めた。尿検査は特記所見を認めず,髄液検査はtrauma tapであり,細胞数21/μL(単核球12/μL,多核球9/μL)であった。胸部単純X線写真では,異常浸潤影を認めなかった。呼吸器感染症遺伝子パネル検査は全て陰性であった。またIgG,IgM,IgAの異常を認めなかった。
入院後経過:母体感染は不明であり,髄膜炎を想定し第1病日よりアミノベンジルペニシリン(ABPC)300 mg/kg/day,セフォタキシム(CTX)200 mg/kg/dayの治療を開始した。第2病日に静脈血血液培養からGBSを検出した。第2病日の血液検査ではWBC 23,800/μL(Neu 81.4%),CRP 13.09 mg/dL,プロカルシトニン(PCT)16.96 ng/mLと炎症反応の上昇を認め,ABPC,CTXに加えゲンタマイシン(GM)20 mg/kg/dayの投与を開始した。関節腫脹や四肢の動きに異常を認めず,骨髄炎や関節炎は否定的と判断した。入院2日目に施行した心エコーでは心収縮良好,疣贅を認めず感染性心内膜炎を疑う所見を認めなかった。髄液培養からは起因菌は検出されず,第3病日にCTXを中止し,第5病日よりABPCを200 mg/kg/dayに減量した。感染経路の検索として母の尿,皮膚(乳頭),母乳より培養検査を提出したところ,母乳からGBSが検出された。児と母乳のGBSの血清型はいずれもIII型を呈した。他院出生のため同時期出生の児のGBS感染歴は不明であったが,児と母乳のGBSの血清型が一致しており,経母乳感染による遅発型GBS菌血症と診断した。抗菌薬を計2週間投与し,第16病日に退院した(図1)。
入院後経過
また児の栄養に関しては母乳栄養の継続希望が強く,母体の除菌を行う方針とした。母がセフェム系の抗菌薬アレルギーがあり,交差反応を考慮し当院感染症科と相談の上,抗菌薬はペニシリン系ではなくST合剤を選択し10日間内服した。
退院後の栄養は,母乳栄養中心の混合栄養とし,3週間毎に外来で母乳培養を提出した。フォロー期間としては超遅発型GBS感染症の定義にあたる生後3か月になるまで行った。日齢45(退院18日目)は母乳培養陰性,日齢73(退院46日目)は母乳よりGBSが少量検出された。児の全身状態は良好であったが,母乳の除菌目的にST合剤の内服を10日間実施した。入院中と異なり児に抗菌薬の投与は行われていないため,母乳の除菌中は人工乳で経過観察を行った。児は症状を認めず経過した。以降約3週間毎に母乳培養を提出したが,培養の陽性報告なく経過し,母乳培養のフォロー期間を終了した(図2)。フォロー終了後も定期的に診察を行い,1年を経過した時点で再発や発達遅滞なく経過している。
児の栄養経過
GBSは消化管,泌尿・生殖器の常在菌であり,妊婦の10–30%が膣や直腸に保菌すると言われている2)。GBS感染症は発症時期により,日齢6までの発症を早発型,日齢7–89までを遅発型,日齢90以降の発症を超遅発型と定義する。発症頻度は早発型が1,000出生時あたり0.09人であり,遅発型は0.12人,超遅発型は0.01人とされる3)。早発型では分娩時に児が羊水や腟分泌液に曝露することでGBSが児へ伝播し,感染臓器不明の菌血症や肺炎,髄膜炎を来す。遅発型・超遅発型は菌血症や髄膜炎,骨髄炎や関節炎,蜂窩織炎を来す。接触感染や経母乳感染といった水平感染との指摘はあるが,詳細な感染経路は明らかではない。
GBSは菌の多糖体抗原を血清型別で分類している4)。血清型は,Ia,Ib,II–X型まで存在する。早発型GBS感染症の症例では,Ia型,Ib型,III型によることが多い。また遅発型GBSではIII型が多いという報告があり,III型は髄膜炎を発症しやすいと言われている5)6)。血清型を確認することは必須ではないが,重症化リスクの評価になり得る。
母乳栄養は乳児を感染から守る役割を果たしているが,稀に母乳は感染源となる場合がある。GBSは主に母体の皮膚,乳頭部,乳腺から児の皮膚や口腔を経由して感染すると言われている。再発GBS感染症において,母乳培養が陰性後に再び陽性となる例が報告されており,その原因として,児の咽頭にGBSのコロニーが形成されたことにより,母体の乳腺に反復感染を起こすという仮説が近年提唱されている1)。本症例では咽頭培養を提出していないが,咽頭培養を提出することで,経母乳感染の評価に貢献することができる。
経母乳感染を契機とした場合,母乳栄養を完全に中止または,一時的に中止することを勧める文献が散見される1)。また抗菌薬により母乳内GBSの根絶が期待される。抗菌薬としてはリファンピシンを7日間,アモキシシリンを7–10日間投与とした報告を多数認めた1)7)8)9)。また低温殺菌が有用であったという報告も認められた1)。
一方で,母体に抗菌薬投与を行った症例にて除菌成功が確認できたのは半分程度にとどまり,結果として母乳中止に至った症例も認めた10)。児の粘膜下に存在するコロニーの再感染を認めた場合,母乳の中止では感染を防げない可能性もあるため,注意が必要である。
経母乳感染によるGBS感染症再発例は複数報告されている10)11)。水平感染は一般的に0.5–3%の確率で再発すると言われている10)。経母乳感染の場合再発率が25%まで上昇する報告がある1)。一方,再発率は1%程度であり初回の母乳培養を提出する必要はないという報告もある12)。母乳培養を施行していない遅発型GBS感染症の症例もあり,感染源が不明なまま治癒する例もある。発症率も高くないため,母乳培養施行については十分な見解が得られていないことが現状である。
また,菌のMultilocus sequence typing(MLST)測定が,侵襲性感染症の起因株の遺伝的起源や関連性を知る上で有用であると言われている13)。血清型とST型との類似性が確認されればより正確な発症要因を把握することが出来ると考えられている14)。加えて児の咽頭培養を採取することで感染経路の解明に寄与できると考える。
本症例は母乳培養及び児の血液培養から同様の菌型を検出しており,経母乳感染によるGBS感染症と判断した。III型は髄膜炎の発症率が高いが母乳継続希望が強かったこともあり,退院後は外来にて母乳培養と児の成長・発達経過をフォローした。超遅発型GBS感染症は症例報告が少なく,生後3か月になるまでをフォロー期間とした。日齢73(退院46日目)の時点で,母乳培養よりGBSが検出されたが,児の発症は認めておらず母への抗菌薬投与を行うことで再発症を予防することができたと考える。経母乳感染によるGBS菌血症児への栄養管理は決まったコンセンサスがないことが現状であるが,母乳栄養の継続を希望する場合には本症例のように定期的に母乳培養をフォローし,抗菌薬加療を行うことで母乳栄養の継続が可能と考える。
また前児がGBS感染症であった場合には,早発型GBS感染症のハイリスク群として,次子妊娠時にGBS保菌陰性が確認されても分娩中に抗菌薬を投与することが産科ガイドラインに明記されている15)。母乳GBS陽性母体の次子妊娠の際は,経母乳感染による菌血症や髄膜炎といったリスクがある旨を説明し,妊娠中から出生後の児の栄養方法の希望を聴取する必要がある。ご家族の希望を聴取し,母乳培養のフォローを行うべきかを判断した方が良いと考える。
経母乳感染による遅発型GBS感染症の一例を経験し,治癒後は抗菌薬療法と定期的な母乳培養を行うことで,安全に母乳栄養を継続することができた。経母乳感染による遅発型GBS感染症への治癒後の対応については,いまだに議論の余地があり,今後の症例の蓄積や大規模な前向き研究による検討が必要である。
本症例でB群レンサ球菌血清型別を施行いただいた東京都健康安全研究センター微生物部の皆様に深謝いたします。
本論文の作成にあたり保護者に説明の上,書面で同意を得た。母体へのST合剤投与は保険適用外であるが,アレルギーの既往を考慮しST合剤を選択したことを家族に口頭で同意を得た。個人が特定されない症例報告であり倫理委員会での審査は不要と判断した。
日本小児科医会の定める基準に基づく利益相反に関する開示事項はありません。
筆頭著者である橋本小百合は論文の構想・設計,データの収集・解析及び解釈において貢献をした。金房雄飛,大森多恵,三澤正弘は論文作成または重要な知的内容にかかわる批判的校閲に関与した。