医療と社会
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〈特集〉子どもをめぐる諸課題を考える―少子化問題を中心に―
出産・成育医療の課題と展望
医学の視点から
五十嵐 隆
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2017 年 27 巻 1 号 p. 123-134

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抄録

わが国の周産期や小児の保健・医療は世界的にも優れている。しかしながら,安心して子どもを出産し,子育てをする上で必要な国や自治体からの支援が他の先進諸国に比べ遅れている。さらに,若年成人の所得減少が近年になって著しくなり,経済的不安や将来への不安が強い。晩婚化が進み,子どもを生み育てることへの躊躇が見られる。その結果,低出生体重児の出生が増加しており,成人の生活習慣病や発達障害などの疾患が増加することが懸念されている。適齢期の成人が安心して妊娠・出産することのできる体制の整備,子育て支援,保育環境の整備,思春期医療の充実,子どもや青年の在宅医療の充実,移行期医療の整備,発達障害児者と家族への支援,予防接種体制の整備などが必要とされる。また,かかりつけ医がすべての子どもを定期的にbiopsychosocialに評価し,必要な場合には支援をする健康監査の仕組みがわが国では脆弱である。このような対応は現行の学校健診では不可能であり,特に思春期以降の子どもに対しての整備が求められている。さらに,優れた保健・医療を提供するためには,周産期医学・小児医学研究が不可欠である。わが国では,医療費,年金,教育費など国からの65歳以上の世代への支出が20歳未満の世代への支出よりもはるかに多い。今後,胎児期から次世代の子どもを育てる若年成人までの保健・医療を切れ目なく支援するための理念法である「成育基本法」を制定し,将来を担う子どもや若年成人の保健・医療を充実させることが望まれる。

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© 2017 公益財団法人 医療科学研究所
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