2020 年 30 巻 1 号 p. 9-26
2016年の「改正がん対策基本法」では,「患者の状況に応じた必要な支援を“総合的に”受けられる」ようになることや「がん患者が“尊厳を保持”しつつ“安心して暮らす”こと」ができることが,目指す姿として強調された。本稿では,「がん対策基本法」の理念実現の枠組みである「がん対策推進基本計画」および「がん診療連携拠点病院の整備」でどのようなことが目指されたかを概観した上で,がんの医療現場で取り組まれてきた患者中心のコミュニケーションに関する環境整備の現状と課題,今後の展望を示した。
がん対策で進められてきた医療者のネットワーク,患者や医療者が活用する情報,患者を支える場の3つの整備状況から患者中心のコミュニケーションに関する環境整備の現状を見ていくと,医療者からは,課題は残るものの一定の整備は進んできた現状が示された。一方で,患者から見て提供される医療や支援が,患者に知られ活用できる状況になっていないなど,患者からはつながって見えていない現状が克服すべき大きな課題となっていると考えられた。その解決のためには,医師をはじめとする医療関係者や支援者らが,患者や家族と意図的,意識的にコミュニケーションをとるための環境整備が重要である。
患者からみて医療や支援が連続性があるか(つながって見えているか)の観点から現在の取り組みを見直すとともに,最もコアな単位である医師と患者のコミュニケーションや関係性の強化が図られること,そして,人々が必要な医療情報やサービスにたどり着きやすく,その理解や利用を促進する医療機関の組織全体としてのヘルスリテラシーの向上や地域やコミュニティ全体としてのヘルスリテラシーの向上,患者や家族を支えるための資源の充実などの環境整備が求められている。