医療と社会
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医薬品流通の構造と変化
卸再編成の意味と顧客起点への基軸移動の可能性
三村 優美子
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2001 年 11 巻 2 号 p. 1-27

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抄録

1980年代から90年代にかけて、医薬品卸売業は激しい再編成の渦中にある。特に,90年代後半にはその再編成の速度が加速するとともに,業界の勢力関係を根底から揺るがす大型合併も発生している。その結果,アメリカの卸売業に比べると緩やかではあるが,上位企業へのシェア集中が進んでおり,ある局面ではいわゆる「卸寡占」の兆候もみえる。
卸段階の提携・合併を促進させる一般的な要因は,市場の伸び悩み(縮小)と競争激化,生産段階と小売段階の集中化の動きである。ただし,医薬品流通においては,これらに加えて,公的制度変更(薬価引き下げ,R幅の縮小)による流通段階の収益力低下の影響が大きい。特に,90年代後半の卸売業の急速な業績悪化に伴い,経営不安への対応と流通マージンをめぐる交渉力ポジション強化の意向が強く示されている。ただし,現在の流れは,メーカー,卸売業,医療機関を繋いでいた価値連鎖の鎖(関係性)をむしろ弱める方向に作用していることは留意すべきである。
90年代以降の激しい流通変化には,従来とは異なる新しい要因が作用している。それは,情報システムを駆使し販売動向と在庫・物流活動を“同期化”することで全体在庫の最適化を目指す動きであり,製販統合あるいはサプライチェーン・マネジメントなどと呼ばれる活動である。医薬品流通では, 病院や診療所などの購入が“価格条件” に主として左右され, 大包装単位かつ低頻度発注を特徴としてきたことから,在庫や物流コストあるいは物流サービスのあり方への関心は低かったといえる。しかし,医薬分業の進展と調剤薬局の比重の上昇はいわゆる“多頻度小口化”の傾向を強めさせ,それが医薬品卸の物流システムを撹乱させるようになっている。物流システムの適否が医薬品卸の競争の鍵となりつつある。但し,患者の症状に合わせた多様な医師の処方と調剤を支えさらに服薬指導や経過管理なども含む価値実現を保証する必要のある医薬品流通には,既存のサプライチェーン・モデルでは十分でない。顧客との関係性維持と顧客理解を柱とした新しい流通マネジメント手法が必要である。

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