本稿は,看護婦の労働市場構造に関する先行研究をふまえ,不完全市場仮説,なかでも需要独占・寡占市場仮説の日本への適用可能性に関し,ファクト・ファインディングを通じて検討するものである。そこでは,看護婦の多くが既婚の女子労働者であり,その労働供給は1次稼得者である配偶者の所得,幼少期の子供の有無と人数にマイナスの影響を受ける可能性のあることが認められている。加えて,配偶者の就業地に制約され自らの就業移動を困難とすることから,地域的な労働市場が成立しやすく,一方で需要者である病院が都市部を除いて地域に少数であるために,市場は概して需独占・寡占構造になると推測された。これは,看護婦が直面する賃金率,内部収益率に病院間で格差が存在すること,ならびに,内部収益率格差に縮小傾向がみられないことからも裏づけちれる。また「看護基準制度」は,病院収入の変化によって看護婦の労働需要に影響を与えるのであり,需要独占・寡占モデル自体の変更を要したり,日本への適用可能性を妨げるものではない。上述の賃金率・内部収益率格差,そして病院の看護婦採用経路から,日本の看護労働市場は,看護婦養成校と関連のある病院が労働需要者になっている階層と,関連のない病院が需要者である階層に大きく分かれていることを提示した。