医療と社会
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米国におけるマネジドケアの現状と課題
川渕 孝一
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1999 年 8 巻 4 号 p. 53-72

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抄録

米国ではマネジドケアを中心とする医療保険改革が進められており,その影響が1990年代に入って次第に現れ始めている。主なものを列挙すると次の5点に要約される。
1)一定の割り引きを行う出来高払い方式のマネジドケアや人頭払いをベースとしたマネジドケアが一般的となってきている一方で,従来からの青天井の出来高払い方式はほとんどの地域で用いられなくなった。保険商品の選択肢の増大を望む消費者が増える中で,伝統的なHMOに加えてIPAタイプやPOSオプション,さらにはPPOが台頭している。マネジドケアは医療保険料や民間の医療費の伸び率を鈍化させることに成功したが,長期的に医療費の増大にどのような影響を及ぼすかは不明である。
2)医療業界の合併・買収は相変わらず活発に繰り広げられている。特に,競争力を高あるための資金需要が医療界の統合の強力な牽引力となっているので,医療機関の営利病院への転換が続いている。医療機関への投資については,あまり厳しい規制がないので,今後製薬企業が医師管理会社に投資するという形態に見られるように,明確に利害が抵触する事態を回避する資本参加が増えると考えられる。
3)米国の一般市民は,マネジドケアのコンセプトをほとんど理解していなかったが,最近になって,マネジドケアの行き過ぎが目立ち始めると,マネジドケアに一定の質の確保を求める声が高まっている。特に,医療資源の利用を制限すればするほどマネジドケアに対する批判が高まり,各州とも国民から寄せられる消費者保護の要求に苦慮している。
4)連邦政府にとってメディケアの短期的な問題よりはむしろ長期的問題の方が深刻である。その理由は,第一次ベビーブーム世代があと5-10年もすると定年を迎え,これが2015年以降にメディケア適用になるため大きな財政的負担が予想されるからである。財政的にメディケアを存続させるためには国民に一定の犠牲を求めなければならないのだが,それに対する政府の政策は不透明である。
5)マネジドケアが普及する中にあって無保険者はまったく無力な存在である。無保険者の数は米国の景気が好調なのにもかかわらず減少していない。一方,病院の無保険者に対する処遇も厳しいものになっている。その理由は,これまでは無保険者に対する慈善ケアの費用は民間保険に対するコストシフティングで賄ってきたが,それがマネジドケアの普及によりむずかしくなっているからである。

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