医療と社会
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医師の参入規制と医療サービス支出
-支出関数を用いた医師誘発需要仮説の検討-
泉田 信行中西 悟志漆 博雄
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1999 年 9 巻 1 号 p. 59-70

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抄録

医師誘発需要仮説によれば,医師は患者よりも医療内容に詳しいこと(情報の非対称性)を利用して,患者に対してより密度の高い医療を受けるように影響力を行使できる。通常の財・サービス市場において供給者の増加は,競争を激化させ,価格を低下させるはずである。しかし医師誘発需要仮説が妥当すると,人口当たりの医師数の増加は,医師の裁量的行動による医療サービス需要の増加を誘発し,医療支出を不必要に増大させるかもしれない。しかし医師による誘発が存在しない場合であっても,医療サービスへのアクセス費用が低下することにより患者の直面する実質的な価格が低下し,それにより患者の自発的需要が増大することはあり得る。このような患者主導的需要を考慮しなければ医師誘発需要の効果を過大に推定してしまう可能性がある。そこで本研究では,支出関数を推定することで,医師誘発需要モデルを検証している。支出関数は一定の健康水準を生産するための医療サービスの投入量を測定できるため,受療率の上昇による健康水準の改善は分析モデル内で調整され,医師の誘発する有効的でない医療サービス投入量が分離されて測定可能となる。ここでの推定によれば,人口当たり医師数が1%増加すると,入院サービス使用量は0.8%,外来サービス使用量は0.4%それぞれ不必要に増大する。

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