本稿では、三島由紀夫『近代能楽集』より戯曲「卒塔婆小町」を取り上げ、同時代及び、謡曲「卒塔婆小町」との比較から、三島由紀夫の作品世界を考察した。特に、原曲の百夜通いを遂げることのできなかった深草少将の無念が小町に憑依する場面について、これと戯曲における「老婆」の小町像を比較 し、分析した。 他に、三島の作中に登場する「百年」に注目したところ、夏目漱石の「夢十夜」とモチーフが重なったことから、これについても触れ、三島由紀夫が夏目漱石から受けた影響を検討した。その結果、「卒塔婆小町」には、謡曲との関連同様、漱石の作品とのつながりも見ることができたのである。