抄録
アメーバ性肝膿瘍は本邦では昨今比較的に稀な疾患と考えられているが, 私はここ10年間に3例の本症に遭遇した. 第1例は64才の男子. 肝膿瘍手術後の誘導創口の皮膚縁の生検を行い, たまたま皮内にアメーバを発見したのではじめて本症と判明した. エメチンがよく奏効して全治した. 第2例は巨大な肝膿瘍をもつ56才の男子. 当初から本症を疑いながらも, その診断に決め手がないままに治療が結局消極的態度に終始し, 剖検上でやつと本症と診断できた. 第3例は発熱と右季肋部痛を有する50才の女子. 開腹時に肝穿刺によつて小膿瘍の存在を辛うじて見出した. 第1, 第2症例の経験を基に, アメーバ性疾患を強く疑つて直ちにエメチン療法を施したところ, 間もなく臨床症状は消退した. このとき嚢子排泄症がエメチンに抵抗してのこつていることに気付いた.
これは更にフライジールを投与することで解決した. 患者の夫もまた嚢子排泄者であることが判明したので, この患者は夫を介して感染したと考えられる. かくて第3症例は本症に対して診断上も治療上も, 更に疫学上もはなはだ示唆に富んだ症例であつた.