抄録
重症筋無力症は近年厚生省特定疾患として取上げられて以来, その知識の普及にともなつてその数も増加しているが, 診断は必ずしも容易でない場合がある. これらの症例のうちには, いわゆる非定型的な場合と, 他の疾患との合併例とがある. 高令者では脳血管障害と, 小児では眼疾患と間違えられることがある. また筋萎縮の強い例では眼症状がみられない例もある. 臨床的特徴の欠如している場合にはテンシロン試験が広く用いられているが, 陽性率は93%で, しばしば判定不能の例にあうこともある. 多発性筋炎との合併, 多発性硬化症との合併例, イートン・ランバート症候群との移行型などは, 鑑別が仲々容易でない. 一方, 進行性外眼筋麻痺や, カーンス・シヤイ症候群との鑑別も重要であろう.
治療法に関しては, 胸腺摘出術や胸腺への放射線療法などが広く行われるようになつてきたので, 死亡率も減少し, 完全な治癒をみることも少なくない. しかしながらこれらの十分な治療を行つても, 治療や薬物に抵抗してくる難治例が20%程度みられる. これらのうちには悪性の胸腺腫瘍による場合もあるが, ステロイド, ACTH療法など種々の治療を行つてもなお軽快しない例も多く, これらに対する治療法を確立することが, 今後の問題であろう.