抄録
食道, 気管の圧迫を生じうる大動脈弓の発生異常のうち, 異型右鎖骨下動脈は比較的ポピユラーなものである. 我々は, 無症状に経過し, 食道造影で偶然発見された異型右鎖骨下動脈の1例を経験した. 症例は67才の女性で, 健康診断の際, 食道造影にて食道左壁のfilling defectを指摘され, 精査のため当科に入院した. 嚥下困難を自覚したことは一度もなく, 入院時身体所見及び一般検査成績に異常は認めなかつた. 食道造影, 食道内視鏡にて食道壁外からの圧迫所見を得, 逆行性大動脈弓造影にて異型右鎖骨下動脈による食道圧迫と診断した. 無症状であるため, 今回は外科的治療を行わず, 現在経過観察中である. 異型右鎖骨下動脈は本症例のごとく無症状に経過するものが多く, 症状発現には他の因子が関与していると考えられるが, その機序につき若干の文献的考察を加えた.