抄録
1980年4月から1985年9月までの5年6ヵ月間に当科で摘出手術を行つた顎口腔領域の類表皮嚢胞10例について臨床統計的観察を行つた. 患者の年令は20才代から50才代までの各年代にほぼ均等に分布しており, 従来の報告とほぼ同様であつた. 発生部位に関しては口腔領域の好発部位とされている口底部発生例はなく, 比較的まれとされている頬部(5例)および下唇部(2例)が大半を占め, 諸家の報告とは異なつていた. しかし, 頬部や口唇の嚢胞は直径20mm以下の小嚢胞が多く, 粉瘤あるいは粘液瘤などとの臨床診断で処置され, 病理組織学的検索の行われない場合も多いと推測され, 頬部あるいは口唇部への発生頻度は諸家の報告より高い可能性も考えられた. 病理組織学的検索では全例が皮膚付属器官を含まない類表皮嚢胞で, 摘出後の再発例はなく予後は良好であつた.