抄録
肝疾患, 特に肝硬変では肝性糸球体硬化症などの糸球体病変を伴い, 蛋白尿, 血尿などの尿所見異常が認められることは以前より報告されている. 今回我々は, 56才の男性で腹水貯留をきたすほどの重症肝障害までは進行していない肝硬変に, 肝性糸球体硬化症によるネフローゼ症候群, および腎不全を合併したため難治性腹水が持続し, その経過中に腹水を伴う肝硬変で死亡率の高い合併症として知られる特発性細菌性腹膜炎を併発し, 腹水中に肺炎球菌を認め, 治療にて軽快し現在血液透析にて順調に社会復帰した症例を経験した. 肝性糸球体硬化症ではネフローゼ症候群および腎不全を呈するものは少ないが, 本例の腎生検所見には比較的高度の糸球体病変が認められ, その臨床像と合致するものであつた.