抄録
我が国では, 妊娠に合併する尿崩症は約60例の報告があるにすぎない. そしてその多くは妊娠中に一過性に尿崩症症状が出現し, 分娩後にすみやかに軽快するものである.
症例は27才の主婦であり, 前回妊娠時の後期に尿崩症症状が出現し, 産褥1ヵ月で症状が消失している. 今回の妊娠においても, 中期まではまつたく尿崩症症状はみられなかつたが, 妊娠後期になつて前回同様に尿崩症症状が出現し, その症状も産褥早期に自然消失した.
妊娠に合併する尿崩症の原因については種々の説がいわれているが, 詳しい解明はいまだされていない. 本症例においては分娩前後のDDAVPテスト, 血中ADH値などより, その原因はADH分解酵素活性の亢進によると思われた.