抄録
4年前より重症筋無力症に罹患している54才の女性が, 6ヵ月来背中の痛みを認め次第に両下肢麻痺となつたため1986年6年10日整形外科に転入した. X線検査にて傍脊柱陰影を伴う第7胸椎椎体の破壊が認められ, また前縦隔には胸腺腫がみつかつた. 6ヵ月前まで患者は重症筋無力症の治療としてステロイドホルモンの投与を受けており, それにより誘発された脊椎カリエスによる下半身麻痺(ポツト麻痺)と胸腺腫を伴う重症筋無力症と診断した. 胸骨縦切法により胸腺腫を摘出し, 胸膜外経路により前方から脊髄の除圧と6から8胸椎にわたる椎体固定を行つた. クリーゼが術後4日目に生じた. 術後6ヵ月にて患者は歩行できるようになつたが重症筋無力症の症状は悪化し, 抗アセチルコリン受容体抗体価が高値を示し, 再検査を行つたが胸腺腫の再発はなかつたので免疫抑制療法を行い, ある程度の効果が得られた. 患者は1988年2月14日突然死亡した. 免疫抑制剤より血漿交換療法を用いた方がよかつたかもしれない.