抄録
頭部画像所見やタップテストより, 特発性正常圧水頭症idiopathic normal pressure hydrocephalus(以下iNPHと略す)と診断した82歳の歩行障害女性例に頸椎症性脊髄症にともなう失立失歩(以下「頸椎症性失立失歩」と略す)が疑われたために, タップテストから十分時間をおいて頸椎牽引を行ったところ, 歩行障害の改善を得た. そこで治療として今回は, シャント手術よりも頸椎牽引を優先し, 自宅における1日3回の頸椎牽引を継続した. 牽引開始1ヵ月後には, 車椅子レベルから, 独力で杖歩行による通院が可能な状態となった.
高齢者における特発性正常圧水頭症の診断と治療にあたっては, さまざまな合併症と, 本例にみられた頸椎症性失立失歩に十分な注意を払うべきであると思われた.