抄録
病院薬剤師の業務実態調査の結果に基づき, 薬剤師の業務が患者の安全確保にどのように関わっているかを明らかにし, 医薬品の取り違え等医療事故を防止するための薬剤師の業務のあり方について検討した. 調査方法は, 病院薬剤師の業務調査票(235設問)を280施設に郵送し, 医薬品に関連したインシデント数を記入して回答を得た一般病床114施設について各業務実施の有無とインシデント発現頻度について比較した. 薬剤師の業務分類(1)処方鑑査(6設問), (3)調剤済薬の払い出しの仕方(5設問),(5)医薬品の取り扱い等の情報提供(9設問)は, 設問ごとの実施施設と未実施施設でインシデント発現頻度の平均値に有意差(P<0.05)が得られた. しかし薬剤師の業務分類(2)薬袋およびラベルの記載の仕方(7設問), (4)病棟等の在庫薬の管理(6設問)は, 実施施設と未実施施設でインシデントの発現頻度の平均値に有意差(P<0.05)が得られなかった. 業務項目別では, (1)の患者情報に基づく処方鑑査, 処方変更内容の看護師への連絡, (2)の抗がん剤, 毒薬等注射剤は, ラベルに印を付けている, (3)の1回服用毎に処方薬と持参薬を薬袋またはピルケース等に取り揃えて交付している, (4)の病棟の薬品棚の貼付ラベルに規格や常用量等を判別しやすい文字で印字している, (5)の医薬品の取り扱い等の情報提供については, 実施施設と未実施施設ではインシデント発現頻度に大きな差が認められた. これらの業務は医療安全に資することから, 薬剤師の業務としての取り組みが重要である. なお, この比較評価は, 各薬剤師業務と直接関わるインシデントとの比較ではなく, すべての医薬品に関するインシデントとの比較を行っており, 直接的な結論を出すことは拙速にすぎると思われる. しかしながら, 病院薬剤師の活動が医療安全にどう関連するかということを明らかにした点で非常に有益である.