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筋ジストロフィーの歯列・咬合異常による咀嚼障害に対する咬合床を用いた治療法
有田 憲司
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2007 年 61 巻 12 号 p. 811-818

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抄録

Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)は, 全身病状の進行につれて咀嚼筋の筋障害による閉口筋群と開口筋群との筋圧の不均衡ならびに舌肥大による舌圧と口唇・頬圧との不調和により, 口腔領域にも約90%の症例に上下顎歯列弓の側方拡大, 開咬および下顎角開大などの歯列・咬合異常がみられる. さらに, この口腔周囲の筋圧の不均衡および歯列・咬合異常の進行にともなって, 咬合接触面積の減少, 臼磨運動の障害および咬合力の低下や噛み切る能力など咀嚼機能に障害が現れるため, DMDでは口腔ケアの問題と並んで歯列・咬合異常による咀嚼障害が重大な歯科学的問題の一つとなっている. 近年, 医療の進歩によりDMDの平均寿命は延長しているとはいえ, 根本的治療法がなく呼吸器系および循環器系疾患などの合併症によりその予後はきわめて不良とされており, 生活能力の改善, 生活意欲の向上などQOLを尊重した治療や取り組みが重要であり, とりわけQOLと直結している摂食に関係する障害への対応は最優先されなければならない. しかし, 咀嚼障害に関して対処した報告はきわめて少なく, DMDの咀嚼障害に対する治療法に関しては未開発なまま残されている.
本稿は, われわれがDMDの咀嚼機能回復を目的として考案した咬合床を装着した症例を報告し, 長期経過観察によりその有効性を検討することで, DMDの咀嚼障害への治療法確立への可能性および方向性を論じた.

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© 一般社団法人国立医療学会
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