非晶質セレン薄膜の正孔輸送特性を詳細に吟味するため,捕獲準位制限伝導理論に基づくシミュレーションを行った.その結果,指数関数分布したすそ準位にガウス分布状の準位が重畳した局在準位密度分布を用いることにより,過渡光電流波形の温度依存性,ドリフト移動度の電界・温度依存性を定量的に説明することができた.実験結果とシミュレーション結果がよく一致することにより,非晶質セレンの価電子帯端側の捕獲準位は,従来考えられていた一つの準位ではなく,本研究で用いた連続分布したものであること,250Kから180K程度の温度範囲で実験的に見いだされる正孔のドリフト移動度の電界依存性は,Poole-Frenkel効果により説明されていたが,これは,むしろ,捕獲準位におけるキャリアの多重捕獲により生じていることが結論できる.