1990 年 29 巻 2 号 p. 138-147
主鎖に形成されたσ共役によって特徴づけられる有機ポリシランは,Siσ共役を通したキャリア輸送を行い,10-4 cm2/V・sという高移動度を示すことから,新しいキャリア輸送材料として注目されている.本研究では,有機ポリシランを電子写真有機積層感光体のキャリア輸送層として最大限に活用することを目的として,電子材料としての基本物性値であるイオン化電位とホールドリフト移動度の測定を行った.その結果,有機ポリシランのイオン化電位は側鎖π電子と主鎖のコンホメーション変化によって影響されることを見い出した.一方,ホールドリフト移動度は主鎖のσ共役長に依存し,有機キャリア輸送材料と同様にGiiiの経験式に従うことから,有機ポリシランの伝導機構はSi主鎖のσ共役単位間のホッピング伝導であるとの結論を得た.また,有機ポリシラン自身が成膜可能な高分子であることを利用して,これまでのポリカーボネートのような不活性バインダーに替わる“活性”バインダーとして有機ポリシランを用いる試みを行った結果,イオン化電位の等しい低分子キャリア輸送剤の添加により10-3cm2/V・sというこれまでの有機キャリア輸送材料の中で最高移動度が発現し,新しい複合材料を開発することができた.
さらに,このような高移動度を有する有機ポリシランと各種有機顔料とを組合せた積層感光体の構築を行った結果,適当な有機顔料との組合せにより十分実用化可能な感度が得られることを見い出した.また,有機顔料からのキャリア注入においてはエネルギーレベルだけでは説明できない異常現象の存在を指摘し,この有機ポリジランの実用上の問題点に対する解決法として,有機低分子キャリア輸送剤の添加が有効であることを示した.