1992 年 31 巻 1 号 p. 60-68
熱溶融転写記録における熱拡散シミュレーションにおいて,ワックス・インクの融解熱計算を3種類の方法で行った.このうち2種類は既存の方法であり,差分法を用い,古くから使用されている一般的な方法とG. Comini, K. Morganらによる熱容量の代わりにエンタルピーを導入した有限要素法である.第3の方法は今回初めて報告するが,有限要素法のマトリックス計算の中で仮想的熱流を導入し,融解熱計算を処理していく方法である.計算結果においては3方法に大きな相違はなく,特に第3の新しい計算法はCominiらの結果とほぼ同じ結果を与え,かつ計算時間はかなり短縮されている.実験データと計算との比較も行い,サーマルヘッド発熱素子と同じ大きさの記録ドット形成時の印加電圧とパルス幅の関係において,シミュレーションは実験と同様な変化を示し,インク/記録紙界面に空気層を入れると実験との一致が良いことが示された.