抄録
「五大」とは、世に遍満し、万有を作る五つの元素。地水火風の「四大」に「空」を合わせたものをいう。「大」は梵語の意訳で、元素の意である。芭蕉は仏頂禅師の教えを受ける事により、晩年の十年間は「旅をすみか」とする生活を送った。この背景には、仏頂禅師の禅学、特に「空」を中心とする「四大」という死生観があった。『伊勢物語』の古注釈や、古今伝授などの中にも、この「四大」に「空」を合わせた「五大」思想というものが顕れている。米国オークリッジ国立研究所が行った放射性同位元素分析によれば、一年間で生有体を構成する原子の98%が入れ替わるという事である。この事から考えると「四大」が「空」を中心に循環するという思想は理にかなったものという事になる。本発表では、この「五大」思想が、日本の古典文学の中にどのように表現されているのかという事を中心に考察したい。